#664

「え~と、ジャズ·スクワイアです。メモライズに言われてここに来たんだけど、ライティングはいますか?」


扉を軽く叩いた後に名乗ると、男の返事と共にドアが開く。


そこには筋骨隆々の体に長髪の男――トランスクライブがいた。


「久しぶりだなジャズ。さあ、入ってくれよ」


トランスクライブは笑みを浮かべると、ジャズたちを家の中に招いた。


ジャズはトランスクライブに笑みを返すと、ブライダルも彼に手を振る。


それから中に通されると、そこには二人の男がいた。


そのうちの一人――ライティングが椅子から立ち上がり、ジャズたちを見て嬉しそうに声をかけてくる。


「ジャズッ! 無事でよかったよ。そちらはブライダルだね」


「ライティングこそ……」


ジャズは手を差し伸べてきたライティングと握手。


握手後にライティングは、ブライダルとサーベイランスの手を握り、はしゃいでいるニコの頭を優しくでた。


それから部屋にいた男のことを、ライティングがジャズたちに紹介する。


「この人は、エレクトロ·ハーモニー社の人でボクたちのことを支援してくれているんだ」


ラムズヘッドに紹介された男は立ち上がると、その長い髪を揺らしてその頭を下げる。


ヨレヨレのコートを着たこの男を、ジャズたちは知っていた。


前にウェディングと会ったときにいた――ラムズヘッドだ。


「えぇ、一度会ってるよ。たしかラムズヘッドさんだっけ?」


ジャズがそう言うと、ラムズヘッドはその大きな目をギョロギョロと動かしながら笑顔を見せた。


「覚えてもらっていて恐縮ですよ、ジャズ·スクワイア中尉」


「あたしはもう中尉じゃないですよ。帝国軍からは追われている身ですから……」


それからライティングはジャズに座るように言うと、彼とラムズヘッドも再び椅子に腰を下ろした。


すると、トランスクライブがブライダルとサーベイランス、ニコに声をかける。


「メモライズから、ブライダルがなんか料理を作りたいとか聞いてる。早速炊事場すいじばに連れて行ってやるよ」


「おぉ~いいね~。ここの人たちにブライダル特製タコスを振舞ってあげるよん」


嬉しそうに言うブライダル。


一方でサーベイランスはその首を左右に振っていた。


「いや、私はここに居たいのだが……」


サーベイランスがそう返事をすると、ニコも彼と同じ気持ちのようでジャズと居たいと鳴き返す。


「いいから来いよ。お前らが来るとみんなが喜びそうなんだ」


「……どういう意味だ? ちょ、ちょっと待ってッ!? わッ!?」


だが、トランスクライブは嫌がるサーベイランスとニコの身体をヒョイッと担ぐと、そのまま部屋を出て行った。


「それじゃ姉さん。私らはタコス作ってっから。また後でね~」


ブライダルはそう言ってトランスクライブの後に続いていった。


すでに姿は見えないが、サーベイランスの喚く声はまだ聞こえている。


「なにをする離せッ! 私はここに居たいと言っただろうッ!」


その声を共に、ニコの鳴き声も聞こえていた。


その声を聞きながらジャズがライティングのほうを向くと、彼は笑みを浮かべる。


「大丈夫、あの機械人形がサーベイランス·ゴートだってことはもう知っているよ。彼には後で話を聞かせてもらうして、まずは君と話したかったんだ」

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