#656
ローズはそんな女性の視線を感じ、彼女のほうを眺めた。
すでにモーターボートとローズのいる軍船は目の前だ。
少しでも進めばぶつかってしまうくらいに。
「久しぶりだな」
女性がモーターボートから見返してきたローズに声をかける。
その様子は、ボロボロのシャツに
無表情のせいか、
無表情の女性――アンはナチュラルブラウンのボブスタイルの
「ストリング城での戦いの後……。いや、その後にバイオナンバーに救助されて以来か。元気にしていたか?」
アンはローズに対して、久しぶりに再会した家族のような態度で接した。
そこに緊張はない。
ただ、本心で彼女の身体のことを訊ねているようだ。
それも当然。
アンはローズの姉なのだ。
だが二人には複雑な事情があり、八年前からその仲があまり良好とはいえない。
「一体なんのつもりだ? まさかわざわざそんなことを言うためにこんなところまで来たのか? だったらさっさと帰れ。私は元気そのものだ。それとも、ストリング帝国の邪魔をするつもりで現れたのか?」
「ロミー……。久しぶりに会ったのに、そんな言い方はないだろう? 私はお前の心配を――」
「お前がその名で呼ぶなッ!」
姉に過去の愛称で呼ばれたローズは、突然声を張り上げた。
彼女の右目――義眼が赤く点滅するかのように光っている。
「その名で私を呼んで許されるのは、クロム、ルー、そしてプラムやルドベキア一部の者だけだッ!」
「ロミー……」
「それ以上その名で呼ぶのなら、その無愛想な顔を焼き切ってやるぞッ!」
ローズは激高しながらピックアップ·ブレードの光の刃をアンへと向けた。
アンは
そんな姉にローズは言葉を続ける。
「お前がここへ来たのはジャズ·スクワイアを助けるためだろう? そうやって自分よりも弱い人間に手を貸すことでしか自分を保てない……。まったく情けない奴だ」
「わかっているなら話が早い。悪いが、ここは退いてくれないか?」
「お前の言うことなど誰が聞くか。母国を捨て、世話になったバイオナンバーを……バイオニクス共和国からも逃げ、どっちつかずだったお前が何故今さら一人の少女を助ける?」
「彼女の行動が私に勇気をくれた……。それだけだ」
「ならば、ここで決着をつけるか? 人気のないところに何年も引きこもっていたお前が、ずっと戦い続けていた私に勝てるつもりか? フンッ、笑わせる」
「彼女の行動に勇気をもらったのは……私だけじゃない……」
アンの言葉を聞いたローズは、姉の乗るモーターボートの背後から、無数の船が向かって来ていることに気が付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます