#655

――広大な川を進んでいく無数の船。


ストリング帝国の軍船――その名もゲイター。


全高三十二メートル、全長百二十七メートル、全幅六十三メートルで、その重量六千二百三十トン。


武装は船前方左右に付いた二連の大型インストガン。


元は双胴船そうどうせんだったものを改装した軍船で、当然エレクトロ·ハーモニー社製である。


その船隊の中には、このすべての軍船を指揮する将軍――ローズ·テネシーグレッチの姿があった。


ローズは艦長席に腰を落とし、不機嫌そうに手すりに片肘かたひじを置いていた。


「ジャズ·スクワイアは見つかったか?」


ローズの言葉に、この船隊の先頭いる軍船から連絡を受けた帝国兵が答える。


ジャズ·スクワイアは見つからないが、前から一艇のモーターボートが向かって来ていると言う。


「そんなもの、さっさと撃ち落とせ……うッ!?」


ローズは指示を出そうと瞬間、急に違和感を覚えた。


それはまるで彼女の頭の中に直接触れてくるような、猛烈な不愉快な気分にさせられるものだった。


(この感覚……。七、八年ぶりだ……。まさか、あいつが来たのか?)


ローズが内心でそう思っていると、突然連絡を受けていた帝国兵が叫ぶ。


向かって来ているモーターボートから、ヴィンテージ――アン·テネシーグレッチが現れたと。


その名を聞いた帝国兵たちは皆青ざめていた。


あの世界を救った英雄――アン·テネシーグレッチが自分たちの船の前に現れた。


もしかして、こちらを攻撃するつもりか。


ローズと並び、世界で確認されているマシーナリーウイルスの適合者のうち三人の一人。


かつて暴走したコンピューターを倒した救世主その筆頭であるアン·テネシーグレッチの登場に、帝国兵たちは誰もが震えていた。


兵たちの動揺を感じ取り、ローズは舌打ちする。


そして――。


「……私が出る。お前たちは指示が出るまで待機してしろ。先頭の船にもそう伝えておけ」


ローズはそう言うと、艦長席から立ち上がって艦橋かんきょう――ブリッジから出て行った。


飛行装置――ジェットパックを背負って甲板から飛び出して行く彼女のことを、多くの兵が敬礼しながら見送っている。


「アン·テネシーグレッチ……。ずっと行方をくらまして置いて、今さらなんのつもりだ?」


無数の軍船を見下ろしながら飛んでいくローズが、先頭にある軍船に到着すると、前には聞いていた小さなモーターボートが見える。


そのモーターボートは一人の女性の姿があった。


「来たか、ロミー……」


その女性はそう呟きながら、前にある軍船に降りたローズの姿を見据えるのだった。

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