#654

ジャズの言葉を聞いたブライダルは、慌ててプレイテックに向かった。


そして、眠っているヘルキャットとアリア、ニコを起こすと、サーベイランスに声をかける。


「おいおいどうすんだよッ!? あんたの友だちが来る前に帝国のほうが先に来ちゃったよッ!」


「……これは、不味いな。まさかこんな早く追いつかれるとは……。せいぜい迎えとの合流後くらいに現れると思っていたんだが……」


「見通し甘くないッ!? 私は甘党じゃないから全然嬉しくないよッ!」


「うん? 甘党というのは見通しの甘ささえも好きだったのか? てっきり食品だけだと思っていたが」


「マジメかッ!? ものの例えだよッ! それよりもどうするんだッ!? 水の上じゃさっきみたいに殿しんがりもできないよッ!? それともここでまさか私の隠された能力が開花するパターンとかッ!? そいつは難しいでしょッ!? だって私はこの作品の主人公じゃないもんッ! というか隠された能力ってなんだよッ!?」


「いや、そんなものがあるなら最初から使えと思うが……」


喚くブライダルにサーベイランスが呆れていると、アリアがプレイテックのエンジンをかけた。


まだ暗い早朝に車のライトが輝き、うなるようなエンジン音が響く。


そして、ヘルキャットがジャズたちに言う。


「ともかくこの場から離れよう。敵は川の上だから今からでも車で逃げれば――」


「いや、おそらく森へ戻っても帝国軍がいるはずだ。もうどこにも逃げ場はない」


「ちょっとあんたねッ! そんな絶望的状況なのにどうしてそんな落ち着いてんだよッ!?」


そして、喚いているブライダルにヘルキャットも加わり、二人は丸太に腰かけているサーベイランスを見下ろして怒号を浴びせる。


だがサーベイランスには、彼女たちの声が「ワーワー」「ギャーギャー」といったものにしか聞こえていないようだ。


特に気にせずに、そのままたたずんでいる。


それをプレイテックの車内から見たニコが、あわわと慌てて鳴いている。


「今は揉めているときではありませんッ! 戦うにしても逃げるにしても、動けるようにしなければ。みんな、早く車に乗ってくださいッ!」


収拾がつかなくなりそうだったが、アリアのその言葉で皆プレイテックに乗り込み始めた。


だが、ジャズだけはまだ川の前に立ち、ストリング帝国の軍船がいない――遠くのほうを眺めている。


アリアが叫ぶ。


「ジャズちゃんも早く乗ってくださいッ!」


アクセルを吹かしていつでも出発できることを伝えているが、それでもジャズは動かなかった。


「感じる……」


「ジャズちゃんッ! いいから乗ってッ!」


「この感じ……ローズ将軍だけじゃない……あの人も来る……。どうして……どうしてあたしにわかるの……?」

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