#623

どこまでもお気楽なブライダルにサーベイランスは辟易していたが、彼女の言うことももっともだとも思っていた。


ジャズがここで潰れるようでは、この先はない――。


ウェディングとのことで揉めたときに、自分でもそう彼女へ言ったではないかと。


「そうだな、その通りだ。……お前がいてよかったと、心からそう思う……」


「なにそれ愛の告白? いや~相手がロボットとはいえ照れますなぁ。そりゃ私の魅力なら機械も惚れちゃうのはわかるけどね~」


ブライダルはそう言ってハンドルを握りながら、自分の胸を強調し出した。


彼女の小柄な体型からは想像のできない大きなバストがハンドルにぶつかりクラクションが鳴った。


後部座席にいたニコが驚いて鳴いている。


そんな電気羊を振り返って見たブライダルは、ニッコリと妖艶な笑みを浮かべた。


「と、同時に……。お前ほど下品で頭のおかしい奴は他にいないとも思う」


「褒めといて急に貶すなッ! ったく、上げて落とすなんてあんたなかなかの高等技術を使うじゃないの。いくら照れ隠しするためだからってさ」


「今のは照れ隠しするための技術じゃない。私の正直な気持ちというやつだ。本心、本音、本意とも言う」


「類語辞典みたいな言い回しすんなよッ!」


運転席と助手席にいるブライダルとサーベイランスのやり取りを見て、ニコは「呑気だな」とまた鳴いた。


そんなニコの隣では未だに俯いているジャズの姿が見える。


その様子を見るに、彼女がセティがウェディングに殺されたショックから立ち直るには、まだまだ時間が掛かりそうだった。


「おッ、なんかでっかいのがあるよ」


ブライダルがそう言った先には、巨大な軍艦が見えた。


大地の上で軍艦というのもおかしいが、見える外観はまさしく艦であった。


すると、前を進んでいた帝国軍が止まり、その巨大な軍艦のハッチが開く。


どうやらこの大きな陸上戦艦は、ストリング帝国の基地のようだ。


開いたハッチへ次々に帝国軍のプレイテックが入っていく。


「よくもまあこんなでかいもんを造ったねぇ」


「おそらくエレクトロハーモニー社に造らせたんだろう。今の世界状況でそれが出来そうなのはあの会社くらいだ」


ブライダルはサーベイランスの返事を聞きながらアクセルを踏み、帝国軍に続いて陸上戦艦へと入っていく。


戦艦内に入ると、突然帝国兵たちが現れ、ジャズたちの乗るプレイテックを囲んだ。


そして、車から降りるように窓の外から言ってくる。


その帝国兵たちの手には、電磁波放出装置――インストガンが持たれていた。


まるで「従わなければ撃つぞ」とでも言っているようだ。


ブライダルが車内で、ヘラヘラと笑いながら皆に訊ねる。


「あら~なんか歓迎されちゃってるね~。さて、どうする? 連中を皆殺しにしろぉぉぉッ! って言うなら殺っちゃうけど?」


「ここで争ってもしょうがない。言う通りにしておこう。おいジャズ·スクワイア。お前もそれでいいな?」


サーベイランスが訊ねたが、彼女は力なく頷くだけだった。


それから彼女たちがプレイテックから降りると、何故かジャズだけが一人連れていかれる。


「おいおい、姉さんだけVIP待遇かい? 私たちにも同じ扱いをしてよ」


ブライダルが背中にある青龍刀へ手を伸ばしたが、サーベイランスがそれを止める。


「いいから、ここは言う通りにしておこうと言ったろう」


「でもいいの? もしかしたら姉さん以外――つまり私たちは殺されちゃうかもだよ?」


「そのときは思う存分戦え」


サーベイランスがそう言うと、手を引っ込めたブライダルは、ヘイヘイと言いながらため息をついた。


そのとき、連れていかれそうになっていたジャズが振り返り、ブライダルたちを囲んでいた帝国兵たちに言う。


「彼女たちはあたしの仲間です。もし彼女たちに無礼を働くなら、帝国軍中尉としてあなたたちを軍法会議にかけます」


まだ以前の彼女とは言えないまでも、静かながら力強い口調に帝国兵たちはたじろいていた。


それからジャズは、そのまま傍にいた兵士に早く連れていくように言い、その場から去っていく。


「まったく、本当によくわからん奴だ……」


そう呟いたサーベイランスの隣では、ニコが必死にジャズに向かって鳴いていた。

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