#624
ジャズは二人の帝国兵士に連れられ、陸上戦艦内を歩いていく。
その途中で目に入ったのは軍の設備だけでなく住居などもあった。
おそらく各ブロックごとに区画を決めているのだろう。
それらを見るに、どうやらこの陸上戦艦がストリング帝国の本拠地となっていると思われる。
だが、今のジャズにはそんなことを考える余裕ない。
ただ前を歩く帝国兵士二人の後を追いながら、これから自分がどこへ連れて行かれるのかくらいしか考えていなかった。
それからしばらく歩くと、住居区画内にあった真っ白な外観の建物の前で帝国兵たちが足を止めた。
そして、ここからはジャズ一人で行くようにと、丁寧に頭を下げている。
ジャズは今は亡き文化――中世ヨーロッパ時代を思わせるストリング帝国の建物とは違う、簡素な外観に違和感を覚えた。
「めずらしい、ストリングぽくない建物ね……」
彼女が四角く飾り気のない建物を眺めていると、帝国兵に中へ入るように急かされる。
ジャズは帝国兵たちに謝罪すると、扉を開いて中へと入っていった。
建物内も外に負けじと簡素で飾り気がないものだった。
「やっと到着しましたね」
そして、そこにいた白い壁に溶け込んでいる白衣姿の女性が、ジャズへ声を掛けてきた。
ジャズは見覚えがないのか、不可解そうな顔で白衣姿の女性を見返す。
帝国軍の人間なら大体顔見知りのはずだが――。
ジャズは、そう思いながら女性に軽く会釈した。
年齢は二十代前半くらいか。
それにしても化粧が濃いとジャズは思う。
「ご丁寧にどうも、ジャズ·スクワイア中尉。私はジェーシー·ローランド。ローズ将軍の秘書をやらせてもらっている者です」
そして、ジェーシーと名乗った女性はジャズに頭を下げる。
ジャズはその姓に聞き覚えがあった。
ローランドといえば、かつて初代皇帝であるレコーディー·ストリングがマシーナリーウイルスを調べるために建てた研究施設――ローランド研究所といえば帝国の人間ならば知らない者はいない名だ。
たしか研究所の由来となったのは、ドクターだったテーア·ローランドという男だと聞いていたが――。
「あなたが今考えている通りですよ、私はドクター·テーラー·ローランドの娘……。ローズ将軍の秘書以外の仕事で、父の研究も引き継いでいるから皆はドクター·ジェーシーと呼んでますね」
「ああ、そうでしたか」
ジャズが興味なさそうに返事をすると、ジェーシーは早速案内を始めた。
どうやらジャズを連れてくるように言ったのは彼女ではないようだ。
「ドクター·ジェーシー。わざわざあたしだけを連れてくるように言ったのは誰でしょうか?」
「それは私の言葉から想像できないかしら? でも、答える前にもう会えますよ」
そして、ジェーシーは出入り口の扉からすぐ近くにあるドアを開いた。
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