#622

――その後、セティの副官だったマローダー·ギブソン少尉が帝国兵たちを纏め、ストリング帝国へと帰還することになる。


「我々は戻るが、あなたたちはどうする?」


ジャズたちに訊ねるマローダー。


だが、放心状態となったジャズは何も答えられなかった。


結局サーベイランスの判断で、ジャズたちはマローダーと共に帝国へと共に行くことに決める。


マローダーからは、ジャズが自分よりも地位の高い中尉ということもあってか、一台の装輪装甲車――プレイテックを与えられた。


これに乗ってついてくるようにということか。


しかし、今のジャズには当然運転などできない。


そのため、ブライダルが運転席に乗り込む。


「お前、操縦できるのか?」


「できるよ~。できるけど、無免許だけどね~。まあ、この場合はしょうがないでしょ」


「なら安心して動かすといい 。人間の作った常識など、今の世界では意味がない」


プレイテックの後部座席には、放心状態のジャズと彼女に寄り添っているニコがおり、運転席にいるブライダルの隣――助手席にはサーベイランスが座っている。


セティがウェディングに殺されたことが余程ショックだったのだろう。


今の彼女はまるで魂のない抜け殻のようだった。


「……浮き沈みの激しい奴だな」


後部座席に目をやったサーベイランスがボソッと呟いた。


そんな機械人形の言葉に、ブライダルが笑みを浮かべて答える。


「おいおいサーベイランス。女ってのは感情の起伏が激しいもんなんだよ~。特に私ら思春期の少女はね~」


「そう言うお前は常に一定だな」


「私? そりゃまあ私はほら、裏表のほうが激しいからね~。うまるちゃんみたいなもんだよ」


「……そうか。なんだがよくわからないが、お前の裏の顔だけは絶対に見たくないな」


車内でそんな会話をしながら、進んでいく帝国軍についていくジャズたちの乗るプレイテック。


帝国軍は指揮官であるセティを失って退却しているので、オルタナティブ·オーダーから追撃されると思われたが、しばらく経ってもその気配はなかった。


「なんでだろうね? 向こうからすれば絶好のチャンスなのにさ。敵の退却なんてまさにカモがネギ背負ってるみたいなもんでしょ?」


「おそらく指揮官を一騎討ちで失ったとはいえ、オルタナティブ·オーダーよりも帝国軍のほうが数が多いのだろう。それにさっきの様子を見るには、目的は帝国軍の全滅ではなさそうだった」


「ふーん。じゃあ、ウェディングの狙いは一騎討ちで指揮官を倒してぇ~帝国の士気を落としてぇ~、さらに撤退させるのが目的だったってことかぁ」


「まあ、そんなところじゃないか」


サーベイランスはブライダルにそう返事をすると、再び後部座席を見た。


後部座席では、未だにジャズが放心状態のまま。


このまま帝国に着いても、彼女がこのあり様ではと思いながら、サーベイランスは再び前を向く。


「そんな心配しなくても大丈夫だって」


そんな彼に気が付いたブライダルが笑みを浮かべている。


「姉さんはこんなことじゃ潰れないよ。それに私らの旅はまだ始まったばかりでしょ? プロットだってろくに消化してないのに、姉さんがここで潰れて鬱エンドなんて物語としてつまらな過ぎる。もし、本当にここで話が終わっちゃうなら、私が作者をぶっ殺すから安心しなよ」


「……私は世界最高の技術で造られた人工知能を持っているが……。お前の言うことの半分くらいしか理解できん」


「半分わかれば十分じゃね? ともかく心配しなくても大丈夫大丈夫」

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