#621

セティは銃剣タイプのインストガンを構えてウェディングを睨みつける。


「噂の舞う宝石ダンシング ダイヤモンドウェディング……。ゲリラ戦を止めて突然一騎打ちとは、どういう心境の変化だ?」


訊ねるセティに、ウェディングは何も言わずに黙ったまま、彼女と同じように両手の甲に生えたダイヤモンドの剣を構える。


セティはそんなウェディングを見ると、フンッと鼻を鳴らした。


何か思いつめた表情のウェディングは何も答えない。


「まあいいさ。私も帝国の将校……。お前の申し出、受けて立ってやるぞ」


セティはそう言うとインストガンを発射。


電磁波が銃口から放たれてウェディングへと襲い掛かった。


そこからセティはまるで槍のように鋭く突進。


インストガンの先に付いたナイフを突き刺そうと、ウェディングに飛び込んでいく。


「ダメですセティさんッ! いくらあなたでもウェディングが相手じゃッ!」


人混みをかき分けながらジャズが叫ぶ。


セティはストリング帝国軍の大尉。


厳しい戦場の経験も何度とあり、その実力は現在の実戦経験のない者が多い帝国ではかなり貴重といえる将校だ。


実際にセティはストリング帝国とバイオニクス共和国の前身組織であるバイオナンバーの戦争――アフタークロエも生き抜いた。


さらに女性ながらも一騎打ちに定評があり、その勇ましい戦いぶりからは女傑として知られている。


だが、ウェディングの名声はそれ以上。


彼女はバイオニクス共和国に選ばれた最も能力の高い人間――ハザードクラスの一人である。


ウェディングの実力を知るジャズは、いくらセティでも彼女には勝てないと思っていた。


「はぁぁぁッ!」


電磁波は避けたウェディングへ銃剣を突き刺そうとするセティ。


彼女の銃剣術は学生時代のジャズの憧れだった。


そのため、ジャズは帝国軍人時代にはずっと銃剣タイプのインストガンを使用していた。


「もらったぞッ! 舞う宝石ダンシング ダイヤモンドッ!」


電磁波を避けたことで態勢を崩したウェディングへ、セティの銃剣が突き刺さった。


右の胸部に突き刺さった傷口からは血が噴き出したが、そこから泡が吹き始めて刺されたが塞がっていく。


これはウェディングが持つ能力――超復元グレート·リストレーションだ。


実質的にどんな重傷を負おうが、どんなウイルスに感染しようがすべて正常な状態に治してしまう治癒能力である。


「なんだこれはッ!? 再生するだとッ!?」


セティが自分の攻撃で倒せなかったと悟ると、後退しようとした。


だが、ウェディングはそんな時間を与えない。


突き刺さった銃剣を手で握り、身体から抜けないようにする。


セティは一瞬の判断で不味いと思って、インストガンから手を放した。


しかし、すでにウェディングのダイヤの剣は彼女の首へと振り落とされていた。


「セティさぁぁぁんッ!!」


ジャズがセティへ叫んだ瞬間――彼女の首から上が宙へと舞った。


ウェディングは返り血を浴びながら剣を振って付いた血を落とすと、そのまま下がっていく。


「皆さん、作戦終了です。もうここに用はない」


ウェディングがそう言うと、彼女の背後にいたオルタナティブ·オーダーの面々がジープで彼女を回収。


オルタナティブ·オーダー軍は、その場からすぐに撤退していった。


「セティさん……。セティさんがぁぁぁッ!」


ようやく帝国兵たちの人混みをを抜けたジャズは、首を斬り落とされたセティを前に、もう叫ぶことしかできなかった。

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