#611

ウェディングは笑みを浮かべているブライダルの目に前に立った。


ジャズは拳をグッと強く握った彼女を見て、明らかに苛立っていると思う。


(たしかブライダルの話だと二人は幼なじみみたいな関係だって言ってたけど……)


ジャズは以前にブライダルから聞いたことを思い出していた。


たしかローズ·テネシーグレッチとクロム·グラッドストーン、またはジャック·ドーソンとローズ·デウィット·ブケイターぐらい愛し合ってる。


――と、わかるようなわからないような説明をしていた。


前者はかつてに暴走したコンピューターから世界を救ったヴィンテージの二人だ。


ストリング帝国のローズ将軍とクロム·グラッドストーンは、幼い頃に今は無き氷の大陸あったガーベラ·ドームの側で一緒に暮らしていたという。


そのため、まるで恋人――いや、長年連れ添った夫婦や家族のような関係だったようだ。


後者のジャック·ドーソンとローズ·デウィット·ブケイターに関してはよく知らないが。


なんでもブライダルがいうには、大昔に流行った恋愛映画の主人公とヒロインらしい。


しかし、こちらは完全にブライダルのお得意のおふざけだろうと思われる。


そこから推測するに、ウェディングとブライダルの関係はけして犬猿の仲ではないはずなのだが、目の前の二人を見るにとても仲が良いとは思えない。


ウェディングが睨むようにブライダルを見ていると、ラムズヘッドが口を開く。


「どうやら僕は邪魔者のようだ。目的も果たしたし、そろそろおいとまさせてもらうとしよう」


「ちょっと待ってッ!? あなたにはまだ訊きたいことがッ!」


ジャズは声を張り上げたが、突然ブライダルの胸元を掴んだウェディングに気を取られ、彼を止めることはできなかった。


ウェディングに掴まれたブライダルのほうに動揺は特になく、変わらずに彼女のほうを見ている。


「カシミアが……カシミアが死にました……」


そして、歯を食い縛りながら言うウェディング。


ブライダルは、そんな彼女に素っ気なく「そう」と返事をした。


ウェディングはブライダルの胸元を掴んだまま崩れていく。


ジャズは訊ねたいことがたくさんあったが、そんな彼女の姿を見ると何も言い出せなかった。


その傍で、サーベイランスと並んで立っていたニコが悲しそう鳴く。


ニコの鳴き声だけが響く中、サーベイランスがその場にいる全員に向かって口を開く。


「このまま黙っていても時間の無駄だ。早くお互いに知りたいことを話し合おう」


「サーベイランスッ! あなたねッ!」


ジャズはサーベイランスの言い方が気に入らなかったのか、彼に喰って掛かろうとした。


だが、ジャズの口にした名を聞いたウェディングは信じられないといった様子で呟く。


「サーベイランスって……この小さいロボットが……?」

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