#612

絶句したウェディングが、急にサーベイランスに飛び掛かろうとした。


だが、目の前にいたブライダルによって押さえ込まれる。


「おいおい、いきなりどうしちゃったわけ?」


「離してよブライダルッ! こいつがッ! こいつがカシミアを殺したんだッ!」


ウェディングは手の甲からダイヤモンドの剣を生やし、サーベイランスを斬り裂こうとするが、ガッチリと体を掴まれて身動きができない。


そんな彼女を掴まえながら、落ち着くように言い続けるブライダル。


ニコも暴れるウェディングに向かって宥めるように鳴きかける。


「くッ!? ジャズ姉さんッ! なんでこんな奴と一緒にいるんですか!? こいつが何をしたのか忘れてしまったんですかッ!?」


いくら暴れても動けないウェディングは、次にジャズに向かって声を張り上げた。


サーベイランスがバイオニクス共和国でしたことを忘れたのか。


この機械人形のせいで共和国上層部――グレイ·ファミリーは全員殺され、共和国の研究によって生まれた特殊能力者の子どもたちの多くも死んだ。


それなのに、どうしてそんな奴と一緒に自分の前に現れたのだと、喉が潰れるのではないかと思うくらい叫び続ける。


「まずは落ち着いてよ。簡単に話すと、訳があってサーベイランスはあたしたちに協力してくれているの」


「協力? こんな奴、絶対に信用しちゃダメです! 姉さんは騙されていますッ!」


「ウェディング話をッ! あたしの話を聞いてッ!」


ジャズは必死に落ち着かせようとしたが、ウェディングは彼女の言葉を聞く度にさらに激昂。


ついにはその騒ぎに気が付いオルタナティブ·オーダーの兵士たちが集まってくる。


兵士たちは一体何事かと、ジャズたちに向かって自動小銃の銃口を突きつけた。


それを見たウェディングはハッと我に返る。


そして、オルタナティブ·オーダーの兵士たちに銃を下すように頼んだ。


兵士たちは不可解そうだったが、ウェディングの言う通りにその場から去って行く。


「ウェディング……。聞いて、サーベイランスはあたしたちとこの世界を……」


「聞きたくありません」


ウェディングはジャズに背を向けた。


もう落ち着いてはいるようだったが、やはりジャズたちがサーベイランスといることが許せないようだ。


そして彼女はブライダルのほうへと向かうと、強引にあるものを渡した。


「なにこのちっこいの? USBメモリみたいだけど?」


ブライダルが渡されたものを眺める。


それはパソコンに繋げるようなUSBフラッシュドライブくらいの大きさだった。


それを指先で摘まんでいるブライダルに、ウェディングが答える。


「小型の通信デバイスです。機械に強いジャズ姉さんなら操作できるでしょ」


ウェディングは吐き捨てるようにそう言うと、ジャズたちの前から去って行く。


ジャズがそんなウェディングに待ってほしいと声をかけると、彼女は背中を向けたまま返事をする。


「そのデバイスがあればライティングさんと連絡が取れます」


「それはわかったけど、待ってよウェディング。あなたと話がしたいんだよ、あたしはッ!」


「……すみませんが、今はそんな気持ちになれないです。いえ……そこにいる機械人形が一緒にいるうちは、姉さんの顔なんて見たくありません」


「だからウェディングッ! サーベイランスのことも含めて話をッ!」


「さようなら、姉さん。オルタナティブ·オーダーのことが知りたければライティングさんに訊いてください。私は、これから皆とやることがありますから」


「ちょっとウェディングッ!」


ジャズがウェディング追いかけようとしたが、ブライダルが止めてきた。


ブライダルは首を左右に振って、今のウェディングには何を言っても無駄だとでも言いたそうだ。


「なんで……なんでなの……。せっかくまた会えたのに……」


両膝からその場に崩れ落ちたジャズ。


そんなジャズを慰めようとニコが近寄り、その小さな手で彼女の背中を優しく撫でた。


ブライダルは去って行くウェディングの背中を見て、珍しく表情を強張らせている。


そして、黙ったままのサーベイランスは、泣き出そうなジャズのことをじっと見つめていた。

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