#610

舞う宝石ダンシング·ダイヤモンド――ウェディング。


ハザードクラスと呼ばれるバイオニクス共和国から認定された最高クラスの能力を持つ女子中学生であり、ジャズと同じ共和国で最も優れた者たちが通う学校の生徒だった。


ジャズとはある事件がきっかけで知り合い、それ以来プライベートでも仲良くしていた関係だった。


ジャズはウェディングの傍へと駆け出すと、彼女に抱きついた。


そして、声を張り上げる。


「生きてたんだねッ! よかった本当によかったよッ!」


「姉さんも……無事でよかったです……」


ウェディングもジャズの背に両手を伸ばし、彼女のことを抱き返す。


そんな二人を見て、ウェディングと話していたヨレヨレのコートを着た若い男が口を開く。


「ジャズ……? もしかして、あなたがジャズ·スクワイア中尉?」


ジャズはウェディングから離れると男のほうを見た。


それから返事をすると、ウェディングに男のことを訊ねる。


「この人は……」


「僕はラムズヘッド。エレクトロハーモニー社の者ですよ」


エレクトロハーモニー社とは――。


ウェディング同じく共和国からハザードクラスに選ばれた女性。


フォクシーレディが経営している会社だ。


エレクトロハーモニー社は主に武器や兵器を商品しており、この世界の殆どの機器類――家電から警備用ドローンまで幅広く販売している。


この世界にあるガジェットは、電化製品から軍の兵器まですべてエレクトロハーモニー社で造られているといっても過言ではない――この世で一番大きな会社である。


ラムズヘッドと名乗った男は、その長い髪を揺らしながらヘコヘコと頭を下げている。


ジャズはその芝居じみた態度に違和感を覚えた。


さらにラムズヘッドのギョロギョロした大きな瞳に、思わず仰け反ってしまう。


「あれ? 知らないですか? フォクシーレディが経営してるかなりの大手なのですが」


「知ってますけど……。何故あなたがウェディングと一緒に、いやオルタナティブ·オーダーのところにいるんですか」


ジャズはラムズヘッドが仕事でここへ来ているとは思ったが、他の理由があるかもしれないと思って訊ねてみた。


すると、疑っているようなジャズの態度を見たウェディングがまるで弁解するかのように口を開く。


「姉さんッ! ラムズヘッドさんはわざわざ危険を承知で私たちに物資の補給をしてくれているんですッ!」


どうやらウェディングが言うに――。


ラムズヘッドはオルタナティブ·オーダー軍に弾薬や薬などを届けに来てくれているようだ。


ジャズはブライダルとサーベイランスから、現在この大災害が起きている世界で、ストリング帝国とオルタナティブ·オーダーが戦争状態であることを聞いていた。


それならばエレクトロハーモニー社はオルタナティブ·オーダーの味方なのか。


彼女は次にそのことを訊ねようとした。


だが、それよりも前にウェディングが声を発する。


「それよりもブライダルッ! なんであなたが姉さんといるんですかッ!?」


「おぉ~久しぶりだね、ウェディング。いつ以来かな~」


表情を強張らせているウェディングとは対照的に、ブライダルはいつもと同じくヘラヘラと薄ら笑いを浮かべていた。

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