#607
次の日の朝――。
ジャズが目を覚ます。
その横ではまだ眠っているブライダルとニコの姿があった。
彼女は彼女らを一瞥するとテントから出た。
そこには、朝食の準備をしている玩具のような小さな機械人形――サーベイランスの姿があった。
「おはようサーベイランス。あたしも手伝うよ」
サーベイランスはジャズのほうを振り向くと、良い機会だから料理の作り方を教えてやると言った。
ジャズはあくびをしながらサーベイランスに近づくと、呆れた様子で口を開く。
「なに? あんたが担ぐ人間は料理くらいできなきゃダメってこと?」
「それは関係ない。そうだな……。これはついでだ。丁度いいというやつだ。今から私が料理を作るからそこから学べ」
サーベイランスはそう言いながらその小さな手を動かしている。
すでに洗い終わっていた鍋に水を入れて焚き火にセットし、切り分けたキャベツやじゃがいもを入れていく。
そして湯が沸くと、固形コンソメも加えて塩と胡椒をささっとふりかける。
「なん~だ。昨日あたしが作ったスープと同じじゃないの」
「同じかどうか味見してみるがいい」
ジャズはサーベイランスにそう言われると、スプーンを手に取って鍋に入ったスープを一口。
「こ、これはッ!?」
スープを口に含んだジャズは両目を見開いた。
薄味いながらも口の中に広がる旨味。
さらにそれほど時間も経っていないというのに、野菜にも味がしっかりとついている。
「な、なんでこんなに美味しいの……? あたしと同じ作り方なのに……」
驚いてるジャズに、サーベイランスはため息をついたような仕草をした。
それからこのスープと昨夜に彼女が作った料理の違いを説明する。
まず、ジャズのスープに入っていた野菜は切り分けてあってもサイズが大き過ぎること。
これでは味が染み込まない。
さらに、ジャズは調味料を入れ過ぎるのだと、言葉を続ける。
「あとはな。お前、塩と砂糖を間違えただろう。そりゃスープが苦甘くもなる」
ジャズは自分が決定的なミスをしていたことに気づかされると、うぐぐと表情を歪めた。
返す言葉がないとは、まさに今の彼女の状態だ。
だが、すぐに表情を戻してサーベイランスに礼を言う。
「間違えって、言われないと気が付かないからね。ありがとう。次からは気を付ける」
ジャズはそう言って頭を下げると、主食のライ麦パンを取りにいく。
荷物からライ麦パンを出して火で炙ったナイフで薄く切り分ける。
「材料は細かく……。調味料は少々……って、ねえサーベイランス。調味料ってどれくらい入れるのが正解なの?」
切ったライ麦パンを人数分並べながらジャズが訊ねた。
サーベイランスはそれについては今度教えると言い、スープをプラスチックの食器に移す。
「おはよ~う。なんかメチャクチャいい匂いがするね~」
そこへ、目覚めたブライダルとニコがテントから出てきた。
彼女たちは早速サーベイランスの作ったスープに近寄って来る。
「なんだよぉ。サーベイランスって料理できたんだ」
「……当たってるけど。なんであたしが作ったって思わないんだよ」
不機嫌そうに言うジャズを見てブライダルが笑う。
「だって、姉さんが一晩でこんな料理のレベル上がるはずないもん」
「うぅ、悔しいけど、何も言えない……」
その様子を見ていたニコは、ブライダルの正論に表情を歪めるジャズの背中に手を伸ばし、まるで慰めるように撫でた。
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