#606

それから皆でジャズの作ったスープとライ麦パンを平らげ、先ほど張ったテントへと入る。


「ねえサーベイランス、本当にいいの?」


ジャズはその中から顔を出し、テントには入らずに焚き火の側にいるサーベイランスに声をかけた。


サーベイランスは、自分は眠る必要がないから見張りには適任だと言い、なんだか寂しそうに火にあたっている。


そんな彼を見たジャズは、先ほどの話――街を救ったことで見返りを求めたことはもう怒っていないと伝えた。


「怒っていないなら、少しは私の考えを受け入れてもらいたいものだ……」


サーベイランスがボソッと呟くように返事をすると、ジャズはムッと眉間に皺を寄せて声を張り上げようとした。


だが、サーベイランスなりに自分のことやこれからのことを考えてくれていると思うと、その感情を引っ込ませる。


「それは……考えてるよ……。じゃあ、何かあったらすぐに起こしてね。あたしたちは眠るから」


「あぁ、明日も早い……しっかり休め」


「うん、おやすみなさい」


そして、ジャズはテントから出していた顔を戻した。


それからテントからは、ブライダルの笑い声とニコの鳴き声、さらにジャズの怒鳴り声が聞こえてきたが、すぐに止む。


サーベイランスはしばらくテントを眺めていると、再び視線を焚き火へと戻した。


「さてと、手駒も領地も欲しがらないあるじをどうやって英雄にするか……」


小さいながらも力強く燃えている火を見て、サーベイランスは考えていた。


元々あのような少女を使って世を正そうということ自体が無理なのだ。


幼い頃から戦場に出ていた少女が、とある少年と出会い、悪く言えばヤワになった。


いや、本来は今のような性格だったのだろう。


ただ誰かが困っているというだけで、得にもならない他人を助ける――。


犠牲を嫌い、たとえ自分が傷ついてもハッピーエンドを求める――。


そう――。


だからこそジャズ·スクワイアは適合者の少年――ミックスに心惹かれたのだ。


だがそんな善人ではとてもじゃないが、これから事を構えるだろう相手――ストリング帝国やオルタナティブ·オーダーと渡り合ってなどいけない。


「私は……なんて無謀なことを考えたのだろうな……。あのような小娘に、一体何を期待しているのだ……。ただの人間に……」


サーベイランスが呟いたそのときに風が吹いた。


吹かれた焚き火が揺られ、サーベイランスはその火の光を見て笑った。


「そうだな、サービス……。私たちが間違えるはずないよな……」


サーベイランスは、自分と同じくルーザーリアクターを付けられた人工知能を持つロボット――幼女サービスに語り掛けられたように感じた。


大丈夫、心配いらない――と言われているようだと。


そして腰を下ろしていた丸太から立ち上がると、夜空を見上げながら両手を広げ、風を全身に浴びるのだった。

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