#568

すでに死んでいてもおかしくない状態だが、イードは立ち上がった。


その胴体から血を流しながらも表情一つ変えることない彼の姿に、ジャズは身動き出来ずにただ震えている。


「神具を使えないと思わせておいて、ずっと狙っていたのだな……。見事なり、マスター·メイカよ……完全に私の負けだ……」


イードはジャズに抱かれ動かないメイカに敬意を表すと、物凄い勢いで血を吐き出した。


もう内臓も何も潰されているのだろう。


その凄まじい嘔吐は、イードの命がもう長くはないことがわかるものだった。


「だが……私は使命を果たすぞ……」


血を吐き出したイードはそう言うと、その両目を瞑る。


すると、その巨躯から眩い光を放ち始めた。


「儀式は完全ではない……。しかし、それでもこの地球ほしを救える可能性はあるッ!」


そして、両目を見開いたイード。


その後、纏った光がその輝きを失うと突然大地が激しく揺れ始める。


それから夜空を黒い雲が覆い始め、月が隠されると嵐のような大雨が降り始めた。


その豪雨と共に凄まじい突風が吹き荒れ、次第に大地が割れていく。


「何をしたのッ!?」


堪らなくなったジャズが叫び訊く。


イードは両目を見開いたまま、まず大地を眺めると次に激しい雨を降らせている黒い雲のほうを見上げた。


そのときの表情は、大事な仕事をやり切った男の顔をしていた。


満足気で穏やかな笑みを浮かべており、とても死にかけている者とは見えない心満たされた面持ちだった。


「私の使命は……これで果たされる……」


イードがそういうと轟音と共に雷がそこら中に落ち始める。


ジャズは何が起きているかわからかったが、急いでこの場から離れないと危険だと動こうとしたが――。


「メイカッ!? メイカッ!? どうしたのッ!?」


動かないメイカの右目――神具クロノスが禍々しい光を放ち始めていた。


さらに、プロコラットやシンの身体からもメイカと同じようなドス黒い光が豪雨――いや、雷雨、突風、地震の中で輝いている。


「これが……世界の終わりなの……?」


割れた大地に目の前にいたイードが飲み込まれていく。


さらに周囲に倒れている者たちも、次々に雨や激しい風の影響でジャズの視界から消えていく。


「みんなぁぁぁッ!!」


ジャズが声にならない叫び声を発したときに、雷が彼女を襲った。


そのせいで、彼女は抱いていたメイカから手を放してしまう。


なんとか動こうとするが、すでにジャズの身体は体力的にも精神的にも限界だった。


見えなくなっていく仲間たち。


満足そうに姿を消した敵。


もはや身体も動かせず、何をどうすればいいのかわからないジャズは、その場でただ両膝をついて壊れていく景色を眺めているだけだった。

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