#567

メイカは止まった時の中を動き出していた。


夜空に浮かぶイードの作り出した無数の光りは、すでに仲間たちへと向けて落とされている。


何をどうしようと全員を助けることはできない。


広範囲に光の障壁を作り出すオーラなど、今の消耗している身体ではとても無理な状態だ。


助けられるとすれば自分とせいぜい一人だけだ。


ならば誰を助けるのか。


マシーナリーウイルスの適合者である少年――ミックスか。


それとも世界で唯一、その人格で神具から選ばれた奇跡人スーパーナチュラル――プロコラットか。


イードの息子であり、プロコラットと同じく加護を与えられた青年――シン·レイヴェンスクロフトか。


先ほど全員を救うためにその身を犠牲にした呪いの儘リメイン カース――非属ノン ジーナスのロウル·リンギングか。


大事な仲間が死んだことを知り、誰よりもよりもイードを憎んでいる知恵が回る男――ソウルミューか。


何の能力も持たずに、超人たちが戦うこの場へ飛び込んだストリング帝国将校の少女――ジャズ·スクワイアか。


メイカは思考を巡らせながらも、すでに何をすればいいかを決めていた。


彼女は神具クロノスの力で未来を見たのだ。


迷いは消えずとも、それに従って使命を果たすのが、自分のマスター·クオから受け取った役目だと、イードに向かってその手を翳す。


左手で円を描き、それを右手で押し出すようにオーラを放った。


「時間切れね……。時は再び刻み始める……」


神具クロノスの力――。


メイカがマスターズ·タイムと名付けた時を止めるの能力は限界となり、すべての時間がまた動き出した。


それまで止まっていた無数の光の刃が地上にいたすべての者へと降り注ぐ。


だが、メイカが放っていたオーラは、すでにイードの身体を貫いていた。


「こ、これは……。まさか神具を使ったのかッ!?」


イードは貫かれた胴体に手を当てながら、自分の傷を治そうとオーラを送ろうとした。


しかし、メイカが続けて放った光によって、さらに身体に穴を増やされてしまう。


身体から噴き出る血が、周囲にある緑の草をか赤く染めると、イードはその場にバタンと倒れた。


イードは倒れたが、無数の光が雨にように降り注がれた仲間たちは全員その場で動かなくなっていく。


それは防御をせずに、イードへ攻撃をしたメイカも同じだった。


その中で、一人だけ立っている者がいた。


サイドテールの少女――ジャズ·スクワイアだ。


ジャズは、突然目の前に現れたメイカが盾となってくれたおかげで、軽傷で済んでいたのだ。


「なんで……あたしを……?」


仲間たちが全員倒れた中で、ジャズはメイカに訊ねた。


他の者と同じく無数の光を浴びたメイカは、当然全身から血を流しながら倒れている状態だった。


ジャズは何故メイカが自分を救ったのかが全く理解できなかった。


何の能力も持たないただの人間の自分を、どうしてこの髪の短い女は助けたのか。


誰でもよかったにしても、あれだけ言い争いをした気の合わない自分なんかを何故――。


「言ったでしょ……ジャズ……。あんたにとって……この戦いの後こそが正念場だってぇ……」


「メイカッ! メイカァァァッ!!」


静寂が訪れた戦場に、ジャズの叫び声だけが響く。


彼女はメイカを抱きながら周囲を見回した。


仲間たちは全員メイカと同じように全身から血を流して眠るように目を閉じている。


「みんな……みんなが……」


放心状態のジャズ。


なんて終わり方だと彼女は涙を流していたが――。


まだ戦いは終わっていなかった。


ジャズの背後からゆっくりと城門のような大きなの人影が現れ、それが声を発する。


「してやられたというわけか……」


それは、胴体にいくつも穴が開き、そこから滝のように血を流しているイード·レイヴェンスクロフトだった。

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