#553
それからソウルミューは言い過ぎたとジャズに謝り、提案を始める。
「なあ、姉ちゃんの作戦は悪くねぇんだが、つまんねぇんだよ。オレに任せてくれ。もっと面白いヤツを考えてやる。とびきりイケてる作戦をな」
ソウルミューの言葉に、ジャズが見るからに不機嫌そうな表情をしていると、そこへブライダルが口を挟む。
「わかった。またセプテンバーを歌うんでしょ? 高音パートは任せてよ」
「せふてんばー?」
ブライダルがそう言うと、ジャズはさらに顔をしかめた。
だが、ミックスは何かに気が付いたようでソウルミューに訊ねる。
「もしかして、アース·ウィンド·アンド·ファイアーってバンドの曲のこと?」
ミックスの出したアーティスト名を聞いたソウルミューは両目を大きく広げて彼に迫った。
驚いているというよりは、かなり嬉しそうな様子だ。
「そうだよ……。共和国の学生の間じゃアース·ウィンド·アンド·ファイアーが流行ってんのか?」
「いや全然。後輩の子が好きで聴いてただけ」
ミックスがそう答えるとソウルミューはわかりやすく肩を落としていた。
そんな落胆したソウルミューを見たブライダルは、まるでからかうかのように笑っている。
「ちょっとミックスッ! この人のくだらない話を広げないでよッ! ったく、ただでさえ話が通じない感じなんだから」
「あん? 誰が話が通じないだって? おい姉ちゃん。あんまり調子に乗ってると、その頭から飛び出てるエビの尻尾みてぇな髪の毛を引っこ抜くぞ」
「その例え方……頭痛がしてくるわ」
再び言い合いが始まりそうになったそのとき――。
ブロードが皆に声をかける。
「おい……。彼女は……大丈夫なのか?」
ブロードの言う彼女とは、メイカのことだった。
メイカは
その右目がまるで時計のようになっており、目の中では時針、分針、秒針が物凄い速度でグルグルと回っている。
「大丈夫だよ、ブロード。メイカは神具を使ってるだけだ」
ロウルがブロードへと、メイカの状態を答えた。
メイカの右目は神具クロノスである。
「あんたがそういうなら、まあ問題ないのだろうが……」
ロウルの言い方や声をかけられたブロードの態度を見るに、二人は顔見知りのなのかとジャズが思う。
そして、ジャズは宙に浮くメイカへと近づいて声をかけた。
「マスターメイカ? 大丈夫……なの?」
「うおッわぁッ!」
ジャズが声をかけた瞬間に、メイカが宙から落ちて機内の床に転がった。
そんな彼女に皆が駆け寄る。
「もしかして……未来を見てたの?」
ジャズは青ざめているメイカにそう訊ねた。
メイカは冷や汗を拭うと、息を切らしながら答える。
「えぇ……どうやら前にあたしが見た未来とは変わってしまっているみたいだったからね」
「それで……結果は?」
「教えられない……。あんたらが内容を知ったらまた未来が変わってしまうから……」
ジャズはメイカの一言で気が付く。
答えないということは、メイカが今見た未来を変えたくないということだと。
「じゃあ、あたしたちはイードを止められるってこと?」
ジャズに訊ねられたメイカは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
そして、その口を開く。
「いいかジャズ·スクワイア……。あんたにとってこの戦いの後こそが正念場だ」
「一体なんの話? この後って――」
「ともかくそこのバンダナの彼のいう作戦に従うのよ」
メイカは皆にソウルミューの考える作戦を実行するように言うと、ゆっくりと体を起こした。
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