#543

光のかせがメイカを締め上げると、彼女はその痛みに耐えきれず声を漏らし始めていた。


メゾンマルジェラはそんなメイカを見ると笑みを浮かべ、顔を近づけて息を吹きかける。


「どう? 苦しいでしょ? 早く右目にかけた術を解かないと――ッ!?」


拷問を楽しんでいたメゾンマルジェラは、後ろに人の気配を感じた。


そして振り返ると、そこにはサイドテールの少女――ジャズ·スクワイアがインストガンを構えて立っている。


「あらら、わざわざ仲間のために死に来たのね。私はそういう人間って大好きなのよ。あなたもじっくりと可愛がってあげる」


「その女は仲間じゃない。私は自分の仕事をしにここへ来ただけよ。早く彼女を解放しなさい」


ジャズを見たメゾンマルジェラが手を振ると、彼女の周囲にオーラで作った無数の光のナイフが現れる。


「あなた如きが随分というじゃない。ただの人間が私を倒せると思っているわけ?」


「そうね。あたしじゃあなたに勝てそうにないけど、普通の人間だって知恵くらいあるってことを知ってる?」


ジャズはそう言うとインストガンを発射。


轟音と閃光が機内を埋め尽くす。


だが、それはメゾンマルジェラではなく、航空機内の壁を破壊した。


そのため機内で急減圧が発生し、その空いた穴に吸い込まれるようにしてメゾンマルジェラとメイカは航空機の外へと放り出される。


それからジャズは背負っていたジェッッパックを起動。


外へと飛び出し、放り出されたメイカの身体を掴んで航空機内へと戻る。


それから事前に見つけていた非常用シャッターのスイッチを押し、空いた穴を閉じる。


航空機の外へと投げ出されたメゾンマルジェラはそのまま落下し、ジャズはメイカの救出に成功する。


「今すぐこの航空機を共和国へ戻すんだ」


メイカは自力で光の拘束を解きながらそう言った。


ジャズは礼も言わずに仕切り始めたメイカに苛立ち、呆れながら返事をする。


「はッ? いきなり偉そうになにいってんのッ?」


「神具を守るためだ。あたしは操縦なんてできない。だからあんたにやってってお願いしてるんでしょ」


「普通ありがとうが先じゃない?」


「今は普通の状況じゃない。あと、あたしはあんたに助けてなんて頼んでないでしょ。いいから早く共和国へ戻るように操縦して」


「誰が助けてやったと思ってんだよッ! 大体あたしは最初に言ったよね? 隠れてろってさ! それで捕まってんだからどうしようもない」


「その尻尾みたいな髪と一緒にエゴがはみ出し始めてるよ。今はそんなこと言ってる場合じゃないのがわからないのッ!?」


危機が去ったというのに。


ジャズとメイカはまた言い争いを始めていた。


大広間のような広い操縦室の中に、二人の怒号が響き渡る。


その言い合いの声の中に、足音が聞こえてジャズとメイカは音のするほうへ身体を向けると――。


「やあ、無事だっただね二人共」


処女ヴァージンで追いかけてきていたミックスとロウルがそこにいた。


ロウルのほうはこんなときでも揉めているジャズとメイカに呆れているが、ミックスは嬉しそうに笑っている。


それを見たジャズは、眉間にしわを寄せて彼のことを睨みつける。


「遅いんだよバカッ! あたしが連絡したらすぐに来なさいっての!」


「は、はい……すみませんでした……」


しおしおと肩を落とすミックスは、何故自分が怒鳴られなければならないのかと、謝りながらも不可解に思っていた。


だが――。


「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


いつものかわいた笑みを浮かべ、気持ちを切り替えるのだった。

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