#519
――イード·レイヴェンスクロフトは、炎に包まれ、火の海となったストリング帝国を歩いていた。
二メートルを超える筋骨隆々の身体の上に法衣を纏い、悲しそうな顔で周りを眺めている。
彼が見る燃える街の中では、煉瓦造りの家が半壊し、そこら中で人々の悲鳴が聞こえている。
老人から若者、さらに男女、子供の差はなく、まるで狙っているかのように均一に叫び声が響く。
そして、イードが歩くたびにその声は一つ、また一つと消えていった。
ノピア·ラッシク不在の今――。
帝国軍の主力であるローズ·テネシーグレッチが率いる部隊は、病床の皇子と皇女を連れて離脱。
残された帝国側の勢力は、ノピア·ラッシクの部下であるスピー·エドワーズ大尉とブロード·フェンダー大佐のみである。
それでもこれが、単なるテロ組織の攻撃だったら防ぎきることは可能だっただろう。
だがしかし、突然の襲撃と
「ここだな、ここに我が息子がいる……」
その地獄のような光景を進み。
イードは目的地に辿り着く。
そこは罪を犯した者たちを収容する施設だった。
だが、施設というよりはむしろ砦に近く。
どこか中世のヨーロッパを思わせるストリング帝国らしい建造物だった。
イードは信者を引き連れることなく、一人で崩れた城門を通過していく。
砦の中からは轟音と共に、電磁波の光が現れては消えていく。
イードはその音と光があるほうへと向かう。
そして、轟音と光が近づくと天井の高い空洞のようなところへと出た。
現れたイードに、法衣を纏った彼の弟子たちが
「いたな、我が息子よ」
そこには
捕らえられた深い青色の軍服姿の中に、
「お父様……」
乱れた長髪を振って、シンは右側の頬にあるトライバルな刺青を歪めながら父の姿を見て呟いた。
すでにイードの弟子たちはここを制圧したのだろう。
帝国の将校たちもシンと同じように捕らえられている状態だった。
「ズルフィカールはどこだ?」
イードが息子に訊ねたのは神具のことである。
そしてズルフィカールとは、湾曲した刀身で先端が二股に分かれている聖剣。
シンに加護を与え、
「さあ、わかりません。この国のどこかにあるとは思いますが」
「そうか、ならばこの者たちに訊くとしようと」
イードはシンの言葉を聞くと、ゆっくりと拘束された帝国将校のところへと向かった。
両膝をついてイードを見上げているのは、小柄な少女――ヘルキャット·シェクター少尉と長身の少女アリア·ブリッツ少尉――。
そして、彼女たちの上官だと思われる大人の男性――ブロード·フェンダー大佐がいる。
「教えてもらおう。神具はどこだ?」
「知らない。たとえ知っていても貴様などに教えるものかッ!」
声を張り上げて答えるブロード。
イードがそんな彼の頭を掴むと、その手から光を放った。
「ぐッ!? ぐあぁぁぁッ!」
輝く光がブロードの頭を締め付ける。
拘束されているブロードは当然抵抗することなどできずに、苦痛のあまり声を漏らし始めていた。
「やめてッ! 大佐に手を出さないでッ!」
「私たちは知らないッ! 本当に何も知らないんだッ!」
長身の少女アリアに続いて、小柄な少女が叫ぶとイードは次に彼女たちのほうへとその手を翳す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます