#520
「ならば誰が知っているのだ?」
ヘルキャットとアリアは懇願するような表情でイードを見つめ、そして何度も知らないと言い続けた。
だが、その手は二人へと伸びていく。
イードはまずヘルキャットの頭を掴む。
「うぐッ!? うわぁぁぁッ!」
「ヘルキャットッ!? お願いやめてッ! 私たちは本当に知らないのッ!」
イードの手から放たれる眩い光がヘルキャットの頭を締め付けると、アリアが声を張り上げた。
長身の少女は涙を流しながら悲願するが、イードはけしてその手を緩めない。
「やめろッ! 彼女たちに手を出すなッ!
ブロードも何度も止めるように言い続ける。
砦内に少女の悲鳴が響く。
イードは何を言われても止めずに続けていると、シンが叫ぶ。
「お父様ッやめてくださいッ! そいつらは本当に何も知りませんッ!」
シンの声を聞き、イードはヘルキャットの頭から手を放した。
そして、拘束された息子の前へとゆっくり歩いて行く。
シンはそんな父を見ながら立ち上がった。
そして両目を瞑り、何かを念じるような仕草を見せると、彼の手に湾曲した刀身で先端が二股に分かれている剣――神具である聖剣ズルフィカールが現れる。
それからシンは、その聖剣で両手の枷を解いた。
ブロードはそれを見て苦しそうに言う。
「お前……そんなことができたのならどうして脱獄しなかったんだ……? うがッ!?」
口を開いたブロードに、イードの弟子の一人が喋るなと言わんばかりにその顔面を蹴り上げた。
血反吐を吐いて倒れるブロードのことなど気にせずに、イードは息子の前に立つ。
シンは聖剣ズルフィカールを寝かせて両手で持ち、イードに渡すように突き出した。
そして、ブロードのほうを見て口を開く。
「感謝しろ。これでお前らは助かる」
そんな息子を見たイードは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「慈悲か、それとも捕まっている間に情でも持ったのか? 加護を得て傲慢さに染められたお前からは、とても想像のできないことをしている」
「言っておくがお父様。俺は別に慈悲だとか情だとか、そういう気持ちに駆られたわけではない」
「ほう、ならば何故隠していたものを差し出す気になった?」
「そうだな……。それはここに……
シンがそう言った瞬間――。
突然イードの巨体が吹き飛ばされた。
幹部たちが慌てて師であるイードへ駆け寄ると、それからそれぞれ身構える。
「シン。今のお前、サイコーだぜッ!」
「その通り、素敵ですよ、シンさん」
そこには二人の
両腕にビッシリと入った刺青と顔に大きな傷を持つ男プロコラットと――。
和装姿の白髪の少女――クリーン·ベルサウンドが立っていた。
シンはすぐにブロード、ヘルキャット、アリアの拘束を解くと、その聖剣ズルフィカールの刃を父であるイードへ向ける。
「神具は渡さん。欲しければ俺たちから力づくでも奪うんだなお父様ッ!」
反旗を翻して吠えるシン。
そんなシンと彼の隣に並ぶプロコラット、クリーン二人を見て、イードはゆっくりと起き上がるのだった。
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