#516

ミウムの活躍のより、完全に動きを停止したサーベイランス。


その影響か、ミウムの大地を操る能力で拘束されていた機械人形たちも目の光を失い、その動きを止める。


「これで……終わったんだよね……?」


その様子を見て、ジャズが呟くように言うと、サービスがゆっくりと空へと浮かび上がった。


ジャズは彼女がまた以前のようにいなくなってしまうと思い、声をかけようとするが。


それをわかっていたサービスは、彼女に微笑んでみせる。


「大丈夫……あたしはもうどこにも行かないよ。ただ、彼に会いに行くだけ……」


そしてそう言うと、サービスは物凄い速度で飛んでいってしまった。


ジャズは飛んでいく幼女の姿を心配そうに見上げていると、そこへミウムがやって来る。


「きっと決着をつけに行ったのだろう」


「決着? だってもうサーベイランスはあなたがッ!?」


「サービスも言っていただろう。心配はいらない。あいつは必ず戻ってくる」


《そうだぜ。それよりも早く寝ている奴らを休ませてやれよ》


どこからかミウム以外の声が聞こえ、ジャズが戸惑うとそのデジタルな声は言葉を続ける。


《わりぃ、驚かせたか? 俺はルーツ。ミウムの腕に取り付けられた人工知能だ》


デジタルな声はミウムの機械の腕に付けられたら黒い羊のマークから聞こえてきていた。


ジャズ以外のブレイク、リーディン、ジャガー三人はミウムやルーツのことを知っていたようで気さくに言葉を交わしている。


「よう、ミウムもルーツも元気そうだな。つーかパワー全開じゃねぇか」


「というかミウムってあんなに強かったの!? いやそれよりもどうして共和国に!?」


ブレイクに続いてリーディンがそう言うとミウムは答える。


「ジャガーから連絡をもらったんだ。かなり危機的状況だから今すぐ来てくれと」


《おかけでこちとら休みなしだぜ》


「急で悪かったな。だけど、おかげで助かった。ありがとうな、ミウム、ルーツ」


「私は何かあれば必ず駆けつけると言っただろう。礼を言われるようなことじゃない。ところで、そこの二人は見たことない顔だが?」


ミウムが気を失っているミックスとジャズのことを訊ねると、ルーツはそんなのは後だと急かした。


それもそうだとミウムが返すと、四人ともメディスンやライティングのところへと向かおうとする。


「おい、ジャズ。早くしろ。置いてくぞ」


ジャガーが姉に声をかける。


だが、彼女は呆然とした表情で見つめ返しているだけだった。


「もう……なんなんだよぉ……」


そして、一人だけ状況が理解できないでいたジャズは、その場にヘナヘナと倒れ込んでしまった。


――その頃、飛んでいったサービスはバイオニクス共和国を囲っている防壁にいた。


彼女は風が吹く防壁の上で、壊れかけた一体の機械人形と向き合っている。


「もう終わりだね。あなたが最後……」


サービスが声をかけると、機械人形は口角を上げて手を振った。


その仕草は、妙に芝居がかった舞台俳優のようだった。


「そう思うか? 実はまだ何体も隠しているとは考えないのか? 私との戦いでそのことをわからないお前ではあるまい」


「もしそうだったら防壁の外へ逃げようとなんかしない。あなたは負けたんだよ、サーベイランス」


その機械人形は、唯一生き残ったサーベイランスの身体だった。


ミウムの大地の槍に貫かれた機械人形の集団の中で、今サービスの前にいる一体だけが逃げてきたのだ。


「私が負けただと? 違うぞサービス。私は負けてなどいない。たしかにあの女の適合者の力は予想外だったが。次こそは――」


「次はないよ、サーベイランス」


サービスはそう言うと、サーベイランスに近づいていった。


サーベイランスは観念したのか、逃げようとはせずに、ただサービスを見つめている。


「あぁ……これで人類はお終いだな。私だけが……いや、私たちだけがこの世界に平和と調和をもたらすことができたというのに……。サービス、お前には理解してほしかった。私たちは間違えない。それがこの地球ほしを救うということを……」


「そうだね。人は間違える。だけど、間違えるからこそ。それをどうにかしようと頑張っているんだよ」


「頑張るだと? それがなんだというのだ? そんなことで世界が良くなるとでも思っているのか?」


「違う、違うんだよサーベイランス。人は誰だって間違える。だけどその度に考えて、失敗を悔やんで、言葉を交わし合って、何度も何度もぶつかり合って正しいことを探していくんだよ。あなたの言う通り人に答えは見つけられないかもしれない……。でも、そうやって答えを探し続けるのがあたしの見てきた人間なんだよ」


サービスはサーベイランスに自分の気持ちを吐き出した。


それは、サーベイランスのような知的なものでも考察されたものでもなく、人工知能とは思えない感情的なものだったが。


何故かサーベイランスは何も言い返しはしなかった。


サーベイランスの目の前で足を止めたサービスは、その機械人形の身体にそっと触れる。


「あなたにも見てほしい、そして理解してほしい。あたしの大好きな人たちのこと……。特別なあなたに……」


「サービス……」


サーベイランスは、彼女の名を呟くとそのまま空を見上げる。


それからサービスは全身から光を発すると、サーベイランスの身体はゆっくりと崩壊していった。

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