#510

ジャズはそんなサーベイランスに電磁波を撃ち続けるが、まるで周りを飛ぶ虫でも払うかのように手で弾く。


そして、後退したブレイクに声をかける。


「ブレイク、そこの適合者とは違ってお前の剣技は素晴らしい。長年鍛え抜かれたまさにお手本のような剣だ。だが、最も強力な武器を使ってはいないな」


サーベイランスは、ブレイクに加護を与えて奇跡人スーパーナチュラルにしている神具。


二匹の妖犬、いや妖刀――小雪リトル スノー小鉄リトル スティールを使わないのかと訊ねた。


どうやらサーベイランスは、神具が一体どれほどのものなのか身をもって体験したいようだ。


「それとも使いたくても使えないのか? ならば期待外れだな。いくら常人よりも強いとはいっても、神具のない奇跡人スーパーナチュラルなど、ネットの繋げないパソコンと同じだ」


「そりゃテメェのことだろ。聞いた話じゃサービスってのにネットワークから締め出されたんだってな。ネットに繋げないパソコンって比喩は、テメェの自虐にしか聞こえねぇよ」


「そうやってお前はいつまで悪ぶるんだ? そういう言い回しをすることでタフガイにでもなったつもりか? 俗にいうオラオラ系とかいうやつか? 狂ったふりは止めてもそこはまだ止められないんだな。その口汚い喋り方は、お前の自信のなさが透けて見える行為でしかないぞ」


「うっせぇッ! 黙れやがれッ!」


舌戦ぜっせんを放棄したブレイクは斬り掛かる。


激しい剣の連撃を繰り出すが、サーベイランスには届かない。


いくら打ち込もうとすべて捌かれ、笑われてしまう。


「フフフ、いい加減諦めて神具を出す努力でもしたらどうだ? それとも犬どもと喧嘩でもしたのか?」


攻めながらもブレイクは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


攻撃を受けているサーベイランスは余裕で軽口を叩き、これではまるで攻防が逆のようだった。


「なら、神具の力ってやつを見せてやるよッ!」


その状況で、戻って来たリーディンが叫んだ。


リーディンの側には、いつの間にか神具――経典アイテルが現れており、彼女が手を伸ばすと経典が輝き始める。


分厚い本が独りでに開き、触れてもいないのにページがめくられていく。


「ダメだよリーディンッ! それはダメッ!」


経典アイテルの力を解放しようとしたリーディンに、ジャズが叫んで止めた。


ジャズは、リーディンが――いや、呪いの儘リメイン カースが神具の力を解放するとどうなるかを知っていた。


それは以前にジャズが、経典アイテルの力を目の前で見たからだった。


加護を与えられている奇跡人スーパーナチュラルなら、神具の力を解放してもリスクはない。


だが、神具から啓示を受けているだけの呪いの儘リメイン カースでは、神具の力を酷使するとその身が崩壊を始めてしまうのだ。


そのときの事件では、サービスがルーザーリアクターを使ってリーディンを救うことができたが。


今回も同じように救えるとは限らない。


ジャズは、リーディンが以前と同じようになることを恐れたからこそ、彼女を止めたのだ。


リーディンはジャズの叫びに動きが止まってしまっていた。


その身を震わせ、心配するジャズの姿を見つめ返している。


彼女自身も恐ろしいのだ。


自分の身体が崩壊していくことが。


「そうか……。お前も神具を持っていたな」


サーベイランスはそう呟くと、ブレイクの連撃を強引に振り払って彼の頭を掴む。


そして、そのまま地面にめり込むように叩きつけた。


「よし、少し面白くなってきた。リーディン、お前の神具の力を見せてみろ」


それからリーディンへと近づいてくサーベイランスは、彼女そう声をかけた。

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