#507
マシーナリーウイルスの適合者と何の能力も持たない軍人――。
そんな三人が現れただけで勝機が出るとでも思っているのかと。
サーベイランスはそう言いながらミックスのことを話し出す。
「私はずっと見ていた。そこの少年は共和国に侵入したブロード·フェンダーたちを一人では止められず、さらにブレイク·ベルサウンド。お前にも負けている」
サーベイランスは、いかにミックスが無力を説明する。
マシーナリーウイルスの適合者といっても、ヴィンテージたちとは違い、その力は大したことはない。
戦闘技術、経験でいえばここにいる誰よりも劣る。
「科学列車プラムラインでもそうだ。なんといったかな……。そう……プロコラットという
サーベイランスはミックスについて話すと、次にジャガーとジャズ、スクワイア姉弟のことを話し始める。
「そこのジャガー·スクワイアなど、私に敗れたノピア·ラッシクの犬じゃないか。そうだ、そこで芋虫のように寝ているライティングと同じだ。姉のほうは散々戦場で人殺しをしておいて、今さら人を撃つことを躊躇し出した中途半端な人間だ」
サーベイランスは二人のことをそう言い表すと、ジャズに声をかける。
「共和国に来て他人の善意に触れたのか? サービスはお前のことを随分と買っているようだが、私から見れば肉の壁を見て怯むようになった情けのない奴というだけだ」
そう言われたジャズは、思い当たることがあったようで表情を曇らせた。
そんな彼女を庇うように、ミックスがサーベイランスとジャズの間に入る。
「そうかお前だな、ミックス。お前がこの女を変えたんだ」
サーベイランスの話は続く。
バイオニクス共和国へ来たときのジャズには頼れる者はなく、そんな彼女をミックスはただ困っているというだけで命を懸け、手助けをした。
その後も二人は共に行動し、ジャズはミックスの見返りを求めない善意を見続けた結果。
彼と同じように困っている人に手を差し伸べるようになりたいと思ったのだろうと、サーベイランスは推測する。
「悪意が疫病のように伝染するよう、善意もまた伝染するというわけか……。ライティングの行為も然り……。この場で影響を受けていなさそうなのはジャガー·スクワイアくらいか? そうだ、お前らは知っているか?」
サーベイランスは、ミックスとジャズに向かってブレイクとリーディンについて話し始める。
ブレイクは、妹のクリーン·ベルサウンドのために、勝ち目のない自分に向かってきたミックスに憧れていること――。
リーディンは、殺そうとした自分のことを、ずっと気にかけ続けてくれたジャズに恩を感じていることを、金属の顔の眉間を動かしながら話した。
そして、サーベイランスは一つの結論――。
ミックスが振り撒いた善意が回りに回って、多くの人間に影響を与えたのだと言う。
「善意による繋がりか……興味深いことだ。サービスが私を裏切ったのはやはり……」
「さっきから黙って聞いてれば……。ワーワーうるさいんだよッ!」
突然ミックスが声を張り上げた。
彼はその機械化した拳を握ってサーベイランスに叫ぶ。
「善意がどうとか、誰かが誰かに影響を与えたとか難しいことはどうでもいいんだよッ! 困っている人がいたら助けるなんて当たり前のことだろうッ!」
ミックスの言葉に張り詰めていた空気が緩和した。
ジャズ、ジャガー、ブレイク、リーディン、ライティングの五人はついクスっと笑ってしまっている。
だが、逆にサーベイランスはその金属の顔を強張らせ、その身を震わせ始めた。
「そうだな……。喋り過ぎるのは私の悪癖のようだ。いいだろう、お前らをこの場で全員排除する」
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