#506

ミックスはライティングを抱いて一度下がると、サーベイランスに向かって叫ぶ。


「お前がみんなを傷つけたのかッ!? お前がこの子たちをやったのか!?」


ブレイクとリーディン、ライティングを傷だらけになっていること――。


そして、さらに特殊能力を持つ子どもたちの死体を見たミックスは、いつもの呑気な表情とは別人にように顔中の筋肉を引き攣らせている。


そんな大声で叫ぶミックスの傍に、ストリング帝国の飛行装置――ジェットパックを背負っているジャズとジャガーが上空から降りて来る。


そして、手に持っていたインストガンの銃口をサーベイランスに向けた。


「あいつら、やっと来たのかよ」


「ジャガーはサボり。ジャズたちはどうせイチャイチャしてたんでしょ」


倒れていたブレイクとリーディンは、三人の姿を見て立ち上がった。


二人共口では悪く言っているが、嬉しそうに笑みを浮かべている。


サーベイランスはミックスのことを無視し、その場にいる者たちの顔を見回した。


先ほどまで心が折れそうな表情をしていたというのに――。


自分との力の差を実感させたはずだというのに――。


ブレイクもリーディン、そして四肢を引き千切ってやったライティングでさえ、その顔には希望が満ちていた。


あり得ない。


たかがマシーナリーウイルスの適合者と何の能力も持たない人間が二人現れたくらいで、どうしてこうも変われるのだ。


「何故だ? どうして覇気が戻る? こんな奴らが来たところで、私の優位が揺るがないことくらいはわかるはずだ」


「なに言ってんのかわかんないよ! ともかくお前をぶん殴るッ!」


ミックスは、不可解そうにしているサーベイランスに再び声を荒げた。


そして、機械化――装甲アーマードした両手の拳をガキンっと打ち合わせ、サーベイランスを睨みつける。


それを見て他の者たちが笑っている。


サーベイランスはその様子を見て、さらに不可解さが増していた。


どうして笑えるのだ。


こんな絶望的な状況で。


たかが適合者の少年が声を張っただけでどうしてここまで他の人間の士気が上がるのだ。


これが、ノピア·ラッシクや同じくヴィンテージであるアン、ローズのテネシーグレッチ姉妹ならわかる。


他に捜すなら、この場にはいないハザードクラスである非属ノン ジーナスロウル·リンギングや死の商人デスマーチャントフォクシーレディでもまだ理解できる。


だが、この咆哮した少年は何者でもないただ少年だ。


それがどうしてこうなるのだと、彼は理解できずにいた。


「わからん……まったくわからんなぁ……」


サーベイランスは小首を傾げながらミックスはたちのほうを見ると、その疑問を口にした。

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