#463

その後、大使館へと入ると受付に人の姿はなくメタリックで強固な扉が設置してあった。


ジャガーがその扉の液晶に両手と両目を翳すと、どこからか女性の無機質な声が聞こえてくる。


《ストリング帝国中尉ジャガー·スクワイア。生体認証クリアです》


すると、扉がゆっくりと開いて、ジャガーは中へと入って行く。


「凄いや、帝国の大使館ってこんな最新式のドアなんだね」


「あたし……大使館にこんなところがあるなんて知らなかったんだけど……」


驚きながら続くミックスの隣では、ジャズがブスッと不機嫌な顔をしてジャガーに声をかけている。


振り向いて歩くリーディンの横にいるジャガーは、彼女とミックスに背を向けたまま、この大使館について簡単な説明をした。


大使館の地下には、バイオニクス共和国には知られていない潜入捜査――スパイのための施設があり、これは帝国内でも一部の者しか知らないのだと言う。


実際にこの地下施設を利用、そして管理しているのはジャガーのみらしく、殆ど彼のためのプライベート空間になっているようだ。


「まあ、そういうとこならルーザーリアクターも隠しやすいだろ」


「ルーザーリアクター? それってサービスのこと?」


再び訊ねて来る姉ジャズに、ジャガーは辟易する。


「そこも説明しなきゃいけねぇのかな……。なんかオレ……説明ばっかしてんな」


「なに言ってんの、あんたはいつもそういう役回りでしょ?」


そんな彼にリーディンがからかように声をかけた。


そして、ミックスとジャズにルーザーリアクターのことは話し始める。


「わかりやすくいうとな。サービスの心臓みたいなもんだよ」


ルーザーリアクターとは、自然からのエネルギー技術を用いた永久発電機関であり、サービスの心臓はルーザーリアクターを使用している。


サービスが以前にリーディンとの戦闘で見せた特殊能力は、すべて彼女の動力であるルーザーリアクターの力である。


「オレも専門外だからよくは知らんけど。分子や原子レベルで周囲の自然エネルギーに働きかけてそれで人間の傷を治すんだってよ」


「じゃあ、あのときリーディンを救った力はそのルーザーリアクターの力ってこと? ……アイスランディック·グレイってとんでもないもの造ったんだ……」


説明を聞いたジャズは思う。


それだけ凄まじい力を持って生まれたのが、サービスのような善良な子供でよかったと。


そして、もしサーベイランスがサービスと同じ力を持っているのなら、果たして自分たちの力で倒せるのかと。


(今は考えてもしょうがない。でも……あぁ~ッ! 考えちゃうよそんなのッ!)


「うん? どうしたのジャズ?」


「うっさい! あたしのことは気にすんなッ!」


心配したのに怒鳴り返されてしまったミックスは、しょんぼりしてただ歩く。


「でもまあ、こんなもんだよね……ハハハ……」


そして、いつものかわいた笑みを浮かべるのだった。


それから進んでいくと、ケーブルだらけの部屋へと辿り着いた。


そこは囲いもなく広がった空間だったが、そこ中に大きな電子機器が並んでいて、専門家にしかわからない施設だというのが確認できる。


「こいつだ、このボックスにサービスが入っている」


ジャガーはそのポンポンと叩いたのは、電子機器から伸びているケーブルに繋がれたまるで棺桶のようなボックスだった。


サイズ的には成人男性がすっぽりと入ってしまうくらいの大きさだ。


「早くサービスを起こしてあげてよ!」


「そう急かすなよ。今やるから」


ミックスが待ちきれないといった様子でジャガーに言うと、彼は電子機器の画面を眺めて操作をし出した。


どうやらジャガーいうに、サービスを起こすためのエネルギーをボックスに注入しなければならないようだ。


「こいつはすぐにってわけにはいかなそうだ。生体コーティングやジェネレーターのアップロードにも時間がかかる」


「えぇッそんな~!? なんで起こすだけなのに時間がかかるんだよ!」


「あのなぁ、ミックス。お前にそれを理解させるには、アミノ先生の出すテストを全部満点を取るのくらいに難しい」


「そりゃ……無理だねぇ……」


ジャガーの返事にミックスが肩を落としていると、突然そこに眼帯をした男が現れた。


「一度だけしか言わないぞ。今すぐ中止しろ」


「あんたは……? どうしてここがッ!?」


思わず声をあげたジャガー。


その眼帯の男とは、アーティフィシャルタワーで公開会議を提案した男――バイオビザールの長官ベクターだった。

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