#437
「やったよ兄ちゃん! 俺が俺たちがハザードクラスを、ロウル·リンギングを殺したんだッ!」
首から血を流して倒れるロウルを見たエンポリは、子供のようにはしゃぎながら兄ジョルジに手を振っている。
そんな弟を見て笑ったジョルジは、
「お前は殺さないでおいてやる。あの男との約束だからな」
そして、彼女の右目――神具クロノスへと手を伸ばす。
「神具は頂くぞ。その後は好きにするがいい」
だが、ジョルジがメイカから右目を抜き出そうとすると、突然神具が輝き始めた。
この期に及んでまだ抵抗するつもりかと思ったジョルジは、その眩い光に臆することなく彼女から右目を取ろうとした瞬間――。
「お前たちの……法衣ゴリラの好きにはさせない……」
物凄い衝撃が彼に襲い掛かった。
「兄ちゃんッ!?」
吹き飛ばされた兄に駆け寄るエンポリ。
その間に、身体を縛っていた光の鎖を解いたメイカは、倒れているロウルへ両手を構える。
それから自分の右目を軸に、彼女は突き出した両手で小さく円を描いた。
ゆっくりと、そしてなだらかに。
実に丁寧な両手の動作だった。
すると、どういうことだろう。
倒れていたロウルの首から流れていた血は、まるで動画の逆再生のように彼の身体へと戻っていき、斬られたはずの傷が元通りになる。
「神具クロノス……。感謝するわ。あたしに力を貸してくれて……」
メイカは小さく笑みを浮かべ、クロノスにそう呟いた。
一体何が起こったのか理解できないエンポリは、ジョルジに大声で訊ねる。
「兄ちゃん! ねえ兄ちゃんッ! なんだよあれ! ロウル·リンギングが生き返っちゃったよッ!」
横で喚く弟とは違い、ジョルジは理解していた。
そうなのだ。
あれが神具クロノス――時を
「エンポリッ! あの女だ! あの女を先に殺すぞ!」
「わかったッ!」
喚いていたエンポリは、兄の一言で冷静さを取り戻し、満身創痍のメイカに向かって行こうとしたが――。
「借りは返すぜ」
いつの間にか現れたロウルが彼の行く手を阻んだ。
エンポリは、まずロウルへと振り上げた光の拳を振るったが、それに合わせて拳が向かってくる。
拳と拳が交差してクロスカウンターなり、ロウルの攻撃が先にエンポリ当たると、まるで発射されたロケットのように遥か彼方へとぶっ飛んでいってしまった。
「エンポリッ!? クソッ! よくも俺の弟をッ!!」
弟をやられ、辺りを埋め尽くすほどの大声をあげたジョルジ。
そんな怒り狂った兄へ、メイカは両手で大きく円を描くとその拳を握り、身構える。
「お前はあたしだ。来なさいよ。それともあたしが怖いわけ?」
「馬鹿女が粋がるなぁぁぁッ!」
怒り狂ったジョルジはロウルを無視してメイカへと襲い掛かった。
そこには彼なりの計算もあったのだろう。
まずはメイカから神具クロノスを奪い、それでロウルを制する。
だが予想外だったのは、彼女はもう先ほどまでのメイカではなくなっていたということだった。
「愚かな人間はすべて滅ぼされねばならないッ! そのためにも神具がッ! 俺たちには神具が必要なんだぁぁぁッ!!」
「さっき一瞬だけ、お前たち兄弟の過去が見えた……。動機はあたしと同じ、憎しみだったんだね……」
メイカの放った光がジョルジを覆い尽くす。
光に飲み込まれたジョルジは、その場に崩れてそれ以上もう動くことはなかった。
「だけど、あたしはもう終わりにする。安らかに眠って……」
そして、動かなくなったジョルジに向かって両手の掌を合わせたメイカは深く頭を下げるのだった。
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