#419
――クオの開いた空間によって飛ばされたメイカは、気が付くと
そこは、数年前に恋人ラヴヘイトと二人っきりでよく会っていた場所だった。
「マスターは!? マスターどこッ!?」
メイカが周囲を見渡しながら慌てていると、突然右目に強烈な痛みが走った。
「そ、そんな……。マスターが……マスターがぁぁぁッ!」
その右目には、彼女の師であるクオがイードによって胴体をぶちつかれている映像が流れていた。
絶望のあまり、どうしていいかわからないメイカがその場で頭を抱えていると どこからか声が聞こえてくる。
《メイカ、マスター·メイカよ。心を乱してはならぬ。落ち着いて冷静さを取り戻すのだ》
その落ち着くように言う声が、自分の右目から聞こえてくることに彼女は気が付く。
そして、メイカはその右目に向かって声を張り上げた。
「どうしてマスターを置き去りにしたんだよッ! あんな法衣を着たゴリラなんて、あんたら神具の力を使えば簡単だろッ!」
メイカは自分の右目が神具クロノスであることを思い出した。
それから彼女は声が枯れるまで言葉を続けた。
自分とマスター·クオ二人掛かりで戦えば確実に倒せたはずだ。
それなのに何故あの場で時を止めて戦わせてくれなかったと、その場で動き回りながら叫んでいる。
《今はその時ではない。マスター·メイカよ。お前には大事な使命があるのだ》
メイカの右目――神具クロノスはそんな彼女を宥めるように返事をする。
メイカはその事実を受け止め、自分のなすべきことをするのだと、まるで子供を諭す母親のように言う。
《マスター·クオの教えを思い出せ。傲慢さ、憎しみ、恐怖、執着……。それでは奴には勝てぬと、お前の師が言っていたことだ》
「間違ってるッ! そんな教えは全部、ぜんぶぜんぶぜんぶ間違ってるんだよッ!!」
だがメイカは諭されることなく、さらに感情を高ぶらせる。
里の皆が殺され、さらにマスター·クオまでやられてしまった。
それは全部神具を守るだの、使命を全うするだののせいだ。
里の教えさえ忘れれば誰も死なずに済んだのだと、メイカはクロノスに吠え続ける。
「共和国に里の秘密を知られたくないからって、ずっと山奥に隠れてあんたみたいなオカルトを後生大事に守っていたなんて、間違っていたんだよッ!!」
今のメイカには、クオが彼女に行った術――
何故
何故マスター·クオが里の住民たちに、神具を操る術の存在を隠していたのか。
その答えをメイカは知る。
今の彼女はクオの能力、記憶、想い、すべてを受け継いでいるのだ。
「マスターもオーデマもパテックも……里の皆を殺したのも全部、里の教えが生み出したあの男じゃないかッ!」
だが、今のメイカにはマスターから託された使命よりも、里の人間を皆殺しにしたイード·レイヴェンスクロフトへの復讐心しかなかった。
クロノスはなんとか彼女の考えを改めさせようと、声をかけ続けたが――。
「うっさいんだよッ! 目玉は目玉らしくあたしの右目に収まっとけッ!!」
その想いは届きそうになかった。
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