#398

それからブルースは首だけとなったバーバリーに一礼するとソウルミューに近づき、彼の腹部に触れる。


光を放ち始めた掌。


そのブルースの生命エネルギーがソウルミューに腹部に開いた穴を塞ぎ、傷を治していく。


「なんだよお前……? 皆を連れて逃げろって言ったろ。どうして戻って来たんだ……」


「早く脱出するぞ。もう建物が崩れる」


「脱出っていってもよぉ……」


ソウルミューは自分の身体に付けていたバッチ――ホログラフィック·プロテクションスーツ、略称HPスーツと背負っていた飛行装置――ジェットパックが壊れていることに気が付いた。


この建物はサルファイド·ゾーン――硫化水素のガスが地面から噴き出ている地帯だ。


そんな中をHPスーツ無しで出ることは死を意味する。


しかし、このまま崩れていく基地内にいてもそれは同じだった。


「心配するな、いいから行くぞ」


ブルースはそんな息子に問題ないと言うと、彼に肩を貸して宙へと浮かび始める。


そして、オーラがソウルミューとブルースを包み、崩れていく天井を抜けて外へと飛び出していく。


「はは、情けねぇな……。結局お前に助けられちまった……」


ソウルミューは暖かな光を感じながら乾いた笑みを浮かべた。


神具であるシストルムを手に握りながら、自分の情けないさに自嘲している。


「そんなことない。立派だったぞ」


ブルースはそんな彼を称えた。


情けなくなんかない。


自分の知らない間にソウルミューもリズムも成長していたと、ブルースは誇らしいと思っていることを伝えた。


「今まですまなかったな。お前たちを巻き込みたくなかったとはいっても、それは私の都合で、父親としては最悪だという自覚はあったよ」


「なにいってんだよ、急に?」


「リズムを頼むぞ、ソウルミュー」


ブルースを覆っている光が徐々に弱くなっていく。


だが、ソウルミュのほうの光はそんなことはなかった。


ソウルミューは気が付いた。


ブルースの使う技は、体内にある生命エネルギーを放つものだ。


これまでの戦いも含め、自分の腹部を治療したことでもうブルースのオーラは尽きかけているのだと。


「おい、なにやってんだ!? さっきみてぇにまた父親ヅラするつもりかよ! お前が死んじまうだろ!」


「もうすぐ航空機が見えてくるはずだ……。少々乱暴なやり方だが、そこまでへお前を吹き飛ばす」


ソウルミューに肩を貸して飛び続けているブルースから完全に光が消えた。


硫化水素のガスの充満する外に、保護具も無しの状態となる。


しかし、それでもブルース怯むことなくソウルミューの全身を光で覆い続け、飛行速度を落とすことなかった。


「最後まで何もしてやれなかったな……」


「やめろバカッ! 自分にオーラを使えよッ!」


「だが、お前たちのことを……忘れたことは一度もない……」


オーラを使えッ! 自分に使ってくれッ!」


「いつだって大切に思っていた……」


「おいなんだよッ! 嘘だろおい親父ッ! 嫌だ、こんなの嫌だぁぁぁッ!」


ブルースは泣き喚くソウルミューを空中で担ぎ直すと、そのまま彼に掌を当てて吹き飛ばした。


そして彼は光に包まれたまま、物凄い勢いで飛んでいく息子を満足そうな表情で眺めている。


「父さぁぁぁんッ!!」


ソウルミューは涙を流しながら、ただ父に向かって叫ぶことしかできなかった。

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