#399

その後――。


ブルースによって吹き飛ばされたソウルミューは、リズムたちが乗っていた航空機に回収された。


ソウルミューの話を聞いた皆は、すぐにブルースの元へと急いだ。


そこには冷たくなった彼の身体があった。


すでに硫化水素のガスを吸い過ぎたのだ。


ブルースの死体を回収後、彼を享楽町ハシエンダの近くに埋葬。


涙を流すリズムを慰めながらソウルミューも泣くのを堪えていた。


ダブや、ブライダルとミウムが何を言うことはなかった。


ただ悲しそうな顔でブルースの墓標ぼひょうを眺めている。


体鳴たいめい楽器となったシストルムを抱きながら、リズムがソウルミューに訊ねる。


「お父さんは……お父さんは最後に何か言っていた?」


「ああ、オレたちのことをいつも大切に思っていたって言ってたよ……」


訊ねられたソウルミューは笑顔で答えた。


無理をしているのがわかるほど、いつなく穏やかな笑み。


自分が泣いては駄目だ。


自分が取り乱したらリズムがさらに悲しむ。


ソウルミューはブルースを埋葬しているときはずっと冷静にいるように心がけていた。


それから航空機へと戻った一行。


航空機から自分の荷物を手に取ると、ダブは出て行こうとする。


「おい、ダブ。これからどうするつもりだ?」


そんな彼をソウルミューが呼び止めた。


ダブは振り返ると、彼に答えた。


これからストリング帝国へと向かう。


その理由は兄であるシン·レイヴェンスクロフトが捕まっているからだと。


「僕は兄上を助けたい……。だからここでお別れだよ。今まで色々あったけど……。本当にありがとう」


「待てよ。さっきリズムと話してたんだが、お前も含めてブライダルやミウムたちも行きたいところまで送ってやろうと話しててな。ブライダルとミウムさえよければ、まずはお前を帝国に送ってやろうかと思うんだが」


ソウルミューがブライダルとミウムのほうを向くと、二人はそれで構わないと答えた。


「私はそれでいいよ。別に行きたいとこないし。まあでもミウム次第?」


「ストリング帝国か……。よし、それなりに世界情勢も理解できたしな。次は帝国のことを知りたい。連れて行ってくれ」


「じゃあ決まりね。次の目的地はストリング帝国だ!」


ブライダルとミウムに向かって笑みを浮かべたソウルミューは、操縦席へと向かい、航空機を浮上させる。


ダブは航空機内にいる全員を見回しながら、大きく口を開いてしまっていた。


「みんないいの? それで……?」


そして、ダブは皆に声をかけた。


彼は気を遣わせていると思ったのだろう。


だが、その場にいた全員が言葉を返す。


「ダブのお兄さんに会うの楽しみだね」


――リズム。


「ま、私は依頼主の言うこと聞くだけだから。それにここで私が行かんと読者が離れちゃうでしょ?」


――ブライダル。


「読者? 何を言ってるんだ?」


《気にしたら負けだぜ、ミウム。なあ、ダブ。約束できねぇが、お前の兄ちゃん救出もできることなら手伝ってやるよ。なあミウム》


「ああ、約束はできないけどな」


――ミウムとルーツー。


「だそうだ。全員お前について行くってよ。さあ、行こうぜ、ダブ」


――ソウルミュー。


ダブは涙を堪えながら皆に笑みを向け、その頭を下げた。


そして、皆を乗せた航空機は、ストリング帝国のある方向へと飛んでいった。

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