#392

「あ~……ねぇ、これってヤバいんじゃね?」


すでに両足から腰にかけてアメーバのようにドロドロになったブライダルが傍にいるミウムへ声をかけた。


そのミウムはすでに身体が機械化し、顔のほうまで侵食し始めている。


もう彼女はマシ―ナリーウイルスの暴走によって意識まで失っていそうだった。


《ブライダルッ! ミウムを救えるのはお前の細胞だけだ! 同時にマシーナリーウイルスならお前を救えるッ!》


ミウムの機械の腕に付いた人工知能――黒羊ルーツーがブライダルに叫んだ。


ブライダルはまるでナメクジのように体を引きずってミウムへと近づいていく。


「細胞って……まさか私とミウムでキスしたりアレしたりってこと? 違うよね、ルーツー?」


《いいから早くこっちへ来いッ! 早くしねぇとミウムが機械人形オートマタになっちまう! クソ……俺のほうも……もう……》


ルーツーのデジタル加工されたような声が消えかけていた。


ブライダルはミウムまで這って近づくと、その手を伸ばす。


「さて、私の下半身はもう溶けちゃっている。それでルーツーがいうには私らの細胞やウイルスが交じり合えばこの絶体絶命な状況から脱出できるみたいね。ようは、私とミウムの百合展開をすることで、ミウムのマシ―ナリーウイルスが私の神経を整えて……。一方で私の再生能力がミウムに移ってマシ―ナリーウイルスの暴走を抑える……。悪くないねぇ……。これで私も……その手に見えるは機械装甲の主人公……前作でいうアン·テネシーグレッチになれるんだ……。これってヤバくない……」


《……この……状況で……よく、そこまで喋れるなぁあ……》


ルーツーがノイズ交じりの声で悪態をつく。


ブライダルから見てミウムはもう目の前だ。


だが、そのときに彼女の両腕までも溶けてしまう。


「あらら、これじゃ本当にナメクジじゃない……。ごめんねぇ……。これ以上はもう喋れそうないわ……。自慢のウェットに富んだ……会話も……もう……お終い……だよぉ……」


「こんなときでもブレないお前は……頼もしいな……」


意識が失っていた思われたミウムだったが。


ブライダルの言葉を聞いた彼女はか細い声で返事をした。


すると突然大地が揺れ始め、もう顔まで溶けかかっていたブライダルは、機械化寸前のミウムの身体へと振動で動かされる。


そしてあろうことか、ミウムはその溶けたブライダルの身体を飲み込んでいく。


溶けたブライダルを飲み込んだミウムの身体からは、まるで触手のような機械のケーブルが苦しそうに暴れるとそのまま灰へと変わっていた。


「間に合ったな……。うぇぇぇぇッ!」


ミウムはそう呟くと激しく嘔吐おうと


吐き出された肌色の液体が、次第に人型へと変わっていく。


「人のこと喰うなバカッ!」


その人型はブライダルへと変わり、彼女はミウムに大声をあげる。


どうやらもうマシ―ナリーウイルスによる浸食も、再生能力の神経も整えられたようだ。


当然裸だったブライダルだが、身に付けていた服は彼女の身体と同じように再生した。


それは、彼女の着ていたパイロットスーツのような衣類には、特殊な液をコーティングすることで、自動的に自己修復機能が内蔵される仕組みだからだった。


その特殊な液体とは、バクテリアや酵母菌などの生分解性液。


つまり微生物によって分解される原理である。


つまり引き裂かれた布は液体をかけて圧力を加えるとくっつき、破れた箇所に別の布をあてて圧力を加えるとこちらもくっつくというものだ。


この原理を応用し、繊維の段階で自己修復機能を持たせれば、どんなものを作っても水に触れたり圧力を加えるだけで自己修復が始まる。


「とういうわけで残念。サービスシーンはカットだよ」


「誰に言っているんだ?」


「まあ、いいじゃない。グロい百合展開が終わってこっからは逆転の時間でしょ?」


「ああ、そうだな」


だが、二人の身体はまだ思うように動けないようだった。


それでもミウムとブライダルはニヤリと笑みを浮かべていた。

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