#326

路地裏の先は行き止まりだった。


高いレンガで造られた壁に阻まれ、全身と顔に傷がある女性は持っていた鎖を放り投げてその壁をよじ登ろうとした。


だが、追ってきていた男たちの撃った弾丸に当たり、その場に倒れ込んでしまう。


拳銃を目の前に突き付けられても女性は悲鳴一つあげなかった。


それは覚悟を決めたからなのか。


彼女が両目をつぶって身を固くすると――。


「やめろぉぉぉッ!」


そこへミックスが飛び込んでくる。


ミックスは機械化させた両腕で法衣のようなものを着ている男たちを薙ぎ払う。


男たちはすぐにミックスに無力化しようと拳銃を向けたが、彼に続いて現れたジャズによって阻止された。


そして、その場にいたすべての集団を叩きのめした二人だったが、倒れていた一人が声を張り上げると、まるで角砂糖に群がるありの大軍のように集まって来る。


「よし、ここはさっさと逃げちゃおう」


「逃げるっていったってどこに行くの? 目の前にはよくわかんない集団とレンガの壁しかないじゃない」


「壁があるなら飛び越えればいいさ。ジャズ、ちょっとごめんね」


「わぁッ!? いきなりなんなのッ!?」


ミックスは、まず傍にいたジャズを自分の脇に抱きかかえ、次に全身と顔に傷がある女性を肩に担いだ。


それからニコにしっかり自分の身体を掴むように言うと、両足を機械化して跳躍。


マシ―ナリーウイルスの適合者ならではの身体能力の強化で、目の前にあったレンガの壁を飛び越える。


その跳躍は凄まじく、建物の屋根を軽く飛び越え、その気になれば太陽に手が届くんじゃないかと錯覚するほどだった。


「どうだいジャズッ! こんな壁なら楽勝で越えられるよッ!」


「それよりもあんた……。こんな高く飛んで、ちゃんと着地する場所は考えているんでしょうね?」


「いや全然……」


「どうすんのッ!? この女性ひとは銃で撃たれているんだよッ!? このまま着地の衝撃を受けたら大変なことになっちゃう!」


抱えられながら喚くジャズに続き、ミックスの背中に掴まっているニコも鳴き叫んでいる。


ミックスはすでに落下し始めている状態で、肩に担いだ女性の持っていた鎖を手に取った。


そして、その鎖を目に入った高い建物のアンテナに投げつけた。


鎖はアンテナに巻きつけられてまるで振り子のようなブラブラと揺れ、その動きで地面に落ちるの防ごうとしたが、三人と電気羊の重さに耐えきれずアンテナはボキッと折れてしまう。


「あッ、やっぱ無理だった」


「なにがやっぱだよバカッ!」


そして、ミックスたちは地面に激突するとところだったが、アンテナに鎖を引っかけたことでワンクッション入ったため落下速度は緩やかなっていたので、衝撃は少なくて済んだ。


さらにたまたまた山のように積み上げられたゴミ袋の上だったのも良かったのだろう。


ミックスたちは完全に無事だったとは言わないが、なんとか大怪我することなく着地することに成功する。


「あーイタたたぁ……。でも、なんとかなったね」


「無事だったからよかったものの……次からはちゃんと飛ぶ前にあたしに言いなさいよ」


「はい……」


素直にジャズに謝るミックス。


それから彼らは法衣のようなものを着た集団に気づかれないように、町の外に隠していたストリング帝国の航空機――トレモロビグスビーへと向かった。

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