#325

食堂を出たミックスたちは、特に目的もなく町をブラブラ歩いていた。


ここらは気候が良いのだろう。


すでに季節は冬に入りかけていたが、路上を歩く住民たちは半袖短パン、そしてビーチサンダルなど身軽で気軽な格好でいる。


ミックスもジャズも上着を脱いで手に持っている状態だ。


正直いってこの町はバイオニクス共和国のように裕福な国には見えなかったが。


歩く住民たちや道端で遊んでいる子供たちを見ると、皆楽しそうにしているのが目に入る。


「不便そうなところだけど、良さそうなところだね」


「利便性と幸せは直結しないよ。例えるなら、貧乏な家族でも仲が良かったら毎日楽しく暮らせるでしょ」


「そうだね。俺とジャズとニコも、いつもお金なくても楽しいもんね。この先、大人になったらいろいろ大変なこともあるだろうけど。この町の人たちを見てるとなんとか楽しくやれそうだなって思うよ」


何気ないミックスの言葉に、ジャズは思わずポッと頬を赤らめる。


彼女は想像してしまったのだろう。


将来二人が大人になっても、こうやってニコを連れて一緒にいる姿を。


「あれ? どうしたのジャズ? なんか顔が赤いよ」


「な、なんでもないッ!」


ジャズはミックスとニコを置いて足早に前を歩いていく。


不思議そうに彼女を見ているミックスの横では、ニコがその鈍さに呆れてメェ~とため息をついていた。


鈍感なミックスと敏感なジャズ。


この二人の関係の進展はまだまだ先になりそうだと。


ジャズが足早に歩いていると、前から長い黒髪の女性が息を切らして走っていた。


その女性は、腕の見える服を着ていて顔も含めて全身が傷だらけ。


気にしないようにしてもつい目に入ってしまう姿だ。


その全身が傷だらけ女性の後ろからは、オーバーサイズの何か法衣のようなものを着た集団が追いかけていた。


事件か騒ぎかと思ったジャズがミックスに声をかけようとすると女性は路地裏へと入って行き、集団も彼女を追って消えてしまった。


「なんかこの町、あまり治安が良いとこじゃないみたいだなぁ」


「今のは……」


「うん? どうしたの?」


ジャズが訊ねるとミックスは何も言わずに突然走り出した。


そして、女性と集団が入って行った路地裏へと駆けていく。


「ちょっとミックス!? いきなりどうしたのッ!?」


「今目の前で追いかけられていた女性ひとは友達なんだ! 悪いけどジャズ、先に飛行機に戻っててッ!」


「友達!? なんであんたにこんなとこの知り合いがいるんだよ!? それとトレモロビグスビーは飛行機じゃなくて航空機だからッ!」


ジャズは今追いかけられていた女性がミックスの友人であることに驚きつつも、彼の言葉を無視してニコを抱いて路地裏へと走り出した。


きっとまた困っていた人を放っておけず人助けでもして知り合ったのだろうと思いながら、ミックスの後を追いかける。


「本当にあいつは余計なことに首を突っ込みたがるんだから! 巻き込まれるあたしらの身にもなれってんだよッ!」


文句を言いながら全力で駆けるジャズ。


ニコはそんな彼女に抱かれながら嬉しそうに鳴くのだった。

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