#324
トレモロビグスビーを側にあった目立たない木陰に隠し、ミックスとジャズ、ニコは街に唯一あった食堂へと入っていった。
時間もお昼ということもあり、店内には大勢の客たちの姿が見える。
その多くがジャズのことを見てはひそひそと話をし出していた。
「失礼な人が多いな。外を歩いている人たちは感じよさそうだったのに」
「しょうがないよ。あたしの格好見れば誰でもよそよそしくなるって」
どうやらジャズが着ている深い青色の軍服――ストリング帝国兵の姿に原因があるようだ。
今から七年前――アフタークロエと呼ばれるバイオニクス共和国とストリング帝国の戦争があった。
その戦争の結果は共和国側の勝利の終わり、これまでの帝国のやってきたこと――マシーナリーウイルスによる人体実験などが明るみになり、世界の多くの国が帝国に良い感情を持っていない状態だ。
世間知らずのミックスはそのことを知らなかったのもあって、ジャズが店内の客らに白い目で見られるのを不思議がっていたが。
彼女は自分でそのことを理解している。
「でもさ、ジャズが悪いわけじゃないのに、ただ生まれた国の問題でしょ」
ミックスの言葉にニコも同意して鳴く。
ジャズはそんな彼らの態度が嬉しかったが、こんな話は早く終わりにして昼食を注文しようと返事をした。
食堂にメニュー表はなく、料理を選ぶときは店内の壁に貼ってものを口頭で伝えるシステムのようだ。
ミックスたちはチキンライスを選び、無愛想な店員に頼む。
あっという間に運ばれてきたチキンライス。
早速スプーンを手に取り、料理に口をつけた。
鶏もも肉と玉ねぎ、マッシュルームをさっと炒めて、ケチャップとトマトソースで味をつけているだけの飾り気のないものだったが。
「う~ん、見た目はあれだけど。ケチャップの甘みとトマトソースの酸味が効いていて美味しいね」
「そういうのはよくわからないけど。美味しいのはたしかね」
さっと炒めて玉ねぎの食感や鶏肉の旨みが味わい、味にうるさいミックスも料理に疎いジャズもニコも満足そうだ。
「そういえば値段が書いてないけど、いくらだろう?」
「安心していいよ。ここの支払いは、帝国の経費から払えるから」
「そんな~悪いよ」
「いいから。あたしがあんたにこれまでどれだけ奢ってもらってきたと思ってるの? たまにはこっちが払うよ」
「そ、そう……」
「勘違いしないでよ。あたしは奢られてばかりだと精神的に負担に感じるからで、別にあんたにごちそうしてあげたいとかじゃないんだからね」
ジャズの言葉に、ミックスとニコが思わず微笑む。
そんな彼らを見たジャズは、ツンとした態度でとチキンライスを口へ運んだ。
「まあ、そういうことにしておくか」
「なに、その言い方。あたしのことバカにしてんのあんた?」
「してないって、なんでそうなるんだよ……」
ミックスは、どうしてジャズはすぐに悪く取るのだろうと内心で思いながらも、こうやって知らない土地で彼女と食事できることを嬉しく思っていた。
二人を見ているニコにはわかる。
ジャズは口では悪く言っていても、ミックスと同じく彼女もなんだかんだでこの状況を喜んでいるということを。
「ねえ、ご飯食べたらちょっと町を見て行こうよ」
「別にいいけど。あんた、学校の単位が足りなくなるとか言ってなかったっけ?」
「それはあの子……パシフィカ·マハヤだっけ? あのすぐに噛みつく子がアミノさんと話をつけてくれたみたいだから大丈夫のはずだよ」
「パシフィカか。まあ、あの子は優秀だから大丈夫そうね。じゃあ、ちょっと見て行こうか?」
「うん、そうしよう」
話していた結果――。
ミックスたちは食事を終えた後に、町をちょっと見て行こうということになった。
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