#307

ジャガーは腕時計に付いた電波妨害装置を使って、この建物内の通信を一時的に麻痺させた。


「これなら話せるだろ? 時間がねぇから早く話してくれよ」


その狙いは、いやジャガーがブレイクに聞き出そうとしていたことは、ベクターが彼に尋問したことと同じ――。


白銀髪の女ミウムとの関係と、何故ブレイクが彼女に協力しているかということだった。


「ブレイク、早くして。話してくれないとできることもできなくなっちゃう」


小さな声で必死の形相になったリーディン。


ジャガーも彼女と同じように、いつになく真剣な表情をしている。


「……信じてもらえねぇとは思うが」


危険を冒してまで自分の話を聞こうとした二人に、ブレイクは口を開いた。


もしかしたらこれは罠でメディスン辺りが指示したことかもしれない。


だが、ブレイクはこの二人になら騙されても後悔はないと思った。


元々ジャガーとリーディンは、自分が所属している組織を裏切るような人間だ。


それぞれ事情はあるのだろうが、けして褒められるような――信頼できるような人間ではない。


裏切るという行為は、つまり都合が悪くなれば自分の利益を優先するために動くということに他ならない。


だがブレイクにとって二人は、生まれて初めて命を預け合った他人だった。


ミウムに協力者が必要であると考えたときも、真っ先に浮かんだのがジャガーとリーディンの顔である。


ビザールに入ってからの短い期間で、自分はこれほど二人のことを想っていたのかと考えると、ブレイクは口を開きながら自嘲する。


「あの女の名はミウム。未来から世界を救うためにやって来た」


ブレイクは簡潔に二人へ説明をした。


ミウムが何者なのかと、彼女の目的をできる限り短い言葉で伝わるように。


「未来からって……マジ……?」


話を聞いたリーディンは、信じられないと顔に書いてあるかのような表情で絶句している。


そんな彼女の肩をポンッと叩いたジャガーは、人差し指立てて自分の鼻の前にやる。


彼の監視カメラの位置を気にした動きを察し、リーディンは声を出すのを止めて平静をよそおう。


彼女はジャガーの仕草からもう三十秒経過したことを理解したようだ。


「ほら、さっさと行けよッ! ウゼェんだよテメェらはッ!」


ブレイクは突然声を張り上げた。


ジャガーのサインで彼もリーディンと同じく気が付いたのだ。


だが、リーディンは彼の演技に驚き、立ち尽くしていると――。


「ああわかったよ。行きゃあいんだろ、行けきゃよッ!」


ジャガーが反応して返す。


そしてその場から、いかにも苛立った様子で立ち去っていた。


リーディンはようやく二人が怒鳴り出した理由を察して、ジャガーの後を追った。


牢の中で一人残されたブレイクは両手で顔をおおって笑う。


「なにがムリだ……あの機械女め……。やっぱ信じてくれるじゃねぇかよ……」


――建物から出たジャガーとリーディンは、自分たちのたい焼きの移動販売車に乗り込むとしていた。


そのとき、二人に声がかけられる。


「どうだった? 何かあの女のことは聞けたのか?」


それは暗部組織ビザールで、二人の上司であるメディスンと同じ立場にあるイーストウッドだった。


ジャガーとリーディンがブレイクと会ったのは、メディスンがベクターに、同僚である二人なら何か聞けるかもしれないと進言したからだった。


どうやら建物内に残っていたイーストウッドは、ベクターやメディスンの代わりに報告を聞こうと待っていたようだ。


「いいえ、怒鳴られましたよ。どうやらオレらは信用されてなかったみたいっす。なにかあれば連絡をください。すぐにでも駆けつけますよ」


飄々ひょうひょうとしたいつもの態度で答えるジャガー。


そして、先に運転席に乗り込んでいたリーディンがエンジンをかけ、彼が後部座席に座ると車を走らせた。


その車内では――。


「アンタってウソがうまいよね。関心するっていうかドン引きするレベルだけど」


「おいおい、さっきのが嘘だってか? ブレイクの奴がオレら信用してなかったのは事実だろ? まったく、面倒くせぇ男だよあいつは」


未練みれんたらしいだけじゃなく素直じゃないヤツばっかだな。このチームは」


「お前もだろうが」


それから二人はメディスンへと連絡を入れ、彼がいる場所へと向かった。

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