#306
それからベクターの質問は続いた。
ブレイクには動機がある。
ベクターは彼がラムブリオンに対してあまり良い感情を持っていないことは、メディスンから聞いていた。
質問というよりは尋問ではあったが、ベクターの口調はブレイクのことをかなり気遣ったものだった。
だがブレイクは、何故ラムブリオンの屋敷を襲撃したのかも一緒にいた白銀髪の女ミウムのことも話すことなかった。
そんな黙ったままのブレイクに、イーストウッドが声を張り上げる。
「おい小僧! ベクターさんが優しくしてくれているからってなんだその態度はッ!」
「止めろ、イーストウッド」
しかし、ベクターの一言でイーストウッドは引き下がる。
そして、結局何も喋らないブレイクをこの建物にある牢へと入れ、ベクターはイーストウッドとメディスンを連れて去って行った。
去り際に、今まで静観していたメディスンがブレイクに呟く。
「後であいつらが来る……」
それがどういう意味なのか、ブレイクにはわからなかった。
だが、そのあいつらとはおそらくジャガーとリーディンのことだろうとは予想できる。
二人は自分のことを助けるために来るのか。
それとも、裏切り者としてベクターやイーストウッドには内密に始末するつもりなのか。
今のブレイクの頭の中には、そのことだけではなかった。
ロウル·キリンギングがバイオニクス共和国に来て、マシッナリーウイルスの適合者の少年ミックスを襲撃。
それを彼の妹であるクリーンキベルサウンドが、ハザードクラスの一人
自分がミウムと共にラムブリオンの屋敷で戦っている裏では、そんなことが起きていたことに、ブレイクは動揺を隠せないでいた。
「おっさんとクリーンがやりあったのかよ……」
ブレイクはロウルの心配をしていなかった。
あの男はそんなヤワな人間ではない。
きっとそのうち自分の前に現れて、ガハハと笑いながら面白い話でもしてくれるだろう。
彼の心配はそこではない。
クリーンのことだ。
あの戦うことが嫌いな妹が、誰かを守るために剣を持った。
そのことを深刻に考えていたブレイクだったが、ハッと一人鼻で笑う。
「単に機械ヤロウに借りを返したってだけだろ……。そんな考えるようなことじゃねぇ」
ボソッと呟いたブレイク。
彼がぼんやりと牢の天井を見ていると、そこへ二つの人影は現れる。
「誰に借りを返したんだ?」
その二人の人影はジャガーとリーディンだった。
今日のまだ陽が高い時間では一緒にいた同僚たち――。
二人を見たブレイクは思わず顔を
「なにがアンタにあったのよ?」
ジャガーの質問の答える前に、リーディンが訊ねた。
ブレイクは顔を背けたまま、視線だけは二人のほうへと向ける。
「さあな、オレにもよくわかってねぇ」
愛想なく返事をしたブレイクにジャガーが言う。
「あの白銀髪の女にマインドコントロールでもされたんじゃないか?」
「それ、ありうる。だってブレイクって思い込み激しいもんね」
「クールぶってはいるが、意外と激情家だからな」
「うるせぇよッ!」
ジャガーとリーディンがからかうように言うと、ブレイクは二人のほうを見て声を荒げた。そして、気が付くと三人とも笑っていた。
普段、三人でいるときのような雰囲気だ。
それからジャガーは付けていた腕時計を操作すると、鉄格子に顔を近づけてブレイクに小声で伝える。
「今、この建物内の通信電波を遮断した。三十秒は何を話しても監視している奴らには気づかれねぇよ」
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