#302

「バカッ! 逃げろっつっただろ!」


ブレイクは階段から下りてくるミウムを見上げながら声を荒げた。


それでも彼女は気にも留めず、ブレイクの意に反して戦うつもりのようだ。


そして、ついさっき壁に叩きつけたラヴヘイトに向かって、再びレーザーガトリングガンを発射する。


六本の閃光が回転しながらラヴヘイトの身体を貫こうとし、屋敷の壁はそれに耐えきれず、そのまま外へと投げ出される。


「こんなもんじゃヤツはやれねぇぞ。むしろお返しとばかりに襲ってくる」


「ああ、ラヴヘイトといったか? 奴の能力は私も聞かせてもらっていた。だがルーツーが調べたデータにはいなかった人物だ」


ミウムは再びルーツーの調べたデータを確認し始めた。


どうやら特殊能力者すべてのデータがあるわけではないようだ。


「ともかく今のうちだ! さっさとずらかるぞ!」


「そうはいかないよ~」


ブレイクが叫ぶと、どこからか間の抜けた声が聞こえてきた。


頭のてっぺんから伸ばしたポニーテールと、トランジスタグラマーの体にはパイロットスーツのようなものを着ていて、その小さな背中には青龍刀が見える。


プレハブ小屋がバラバラにされたはずの少女――傭兵ブライダルだ。


ブレイクは自分の目を疑っていた。


たしかに目の前で頭を撃ち抜かれ、無惨な姿になったのを見たはずなのに。


どうしてこの女は生きているのかと。


「あれ? 驚いちゃった? そりゃそうだよね~。なにせ死んだと思っていた奴がまた現れちゃったんだからさ~。これってなんていうか、セックスピストルズ以来の衝撃!! なんてキャッチコピーが付けられちゃいそうなほどだもんね~。って、元ネタわかる? あれだよあれ、スコットランドのバンドだよ。最初にプライマルスクリームのボーカルがドラムやってた。そういえばセックスピストルズといえばさ――」


現れた途端またマシンガンのように喋り出すブライダルに、ミウムは間髪入れずにレーザーガトリングガンを発射。


六本の閃光が回転しながら向かって行き、ブライダルは慌てて屋敷の通路へと身を隠す。


「ちょっとちょっとッ!? まだ喋ってる途中でしょうがッ! 人の話は最後まで聞けって両親でも学校の先生でもいいから誰かに教わらなかったの!?」


「私には両親というものはよくわからない。それと学校というものも行ったことがない」


「そりゃさぞ暗い人生を送って来たんだろうね~。私もそんな感じだから同情しちゃうよ。でもさ、白銀髪のあんたには借りを返さないとね」


どうやらブライダルは、先ほどバラバラにされたことをやり返したに来たようだ。


彼女の中では、すでに二人を始末する仕事は私情になっている。


ブライダルにとって仕事とは、自分が楽しめなければやる価値がないのだ。


「おい、俺のことも忘れんなよ」


そこへ、先ほどのレーザーで穴の開いた屋敷の壁からラヴヘイトも現れる。


「傭兵はそっちの白銀髪の女を頼むぞ。俺は共和国最強とさっきの続きをやる」


「はいは~い、願ったり叶ったりだよ。ハザードクラス対ハザードクラスと、謎の白銀髪の女対可愛い不死身の傭兵少女ッ! う~ん、これはなかなか手に汗握る展開だね! テンション上がってきたッ!」


それぞれの相手と向き合うブレイク、ミウム、ラヴヘイト、ブライダル四人。


互いに距離を縮めながら構え合う。


「そして、そこから四人の戦いが始まるのであった……なんてね!」


「誰に言ってんだお前? その歳で傭兵なんてやってる奴はやっぱ頭がおかしいんだな……」


ブライダルの独り言を聞いたラヴヘイトは、その彼女の意味不明な言動にただ呆れるのであった。

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