#288

――暗部組織ビザールの集会が終わり、学校へと戻っていたジャガーは、放課後に友人であるミックスと会っていた。


「それじゃ死ぬなよ~」


「待てってばッ!」


ミックスが慌てて追いかけたが、ジャガーは近くにあったたい焼きの移動販売車に乗り込む。


キョロキョロと周りを見渡したミックスだったが、ジャガーを見失うとその場から去っていった。


移動販売車の中から見ていたジャガーは、ミックスが連れてきていた電気仕掛けの仔羊ニコと彼の姿が完全に消えるまで見届ける。


「大丈夫なの? なんかあの子、集会の話じゃハザードクラスに狙われてるって言ってたけど」


たい焼きの移動販売車――。


その運転席でハンドルに手を乗せているリーディンが、後部座席に座るジャガーへ声をかけた。


「あいつがタフなのはお前もよく知ってるだろ? それに帝国の連中も来るからな。まあ、最悪あいつが殺されそうになったらメディスンさんに泣きついてなんとかしてもらうさ」


「……あんたってさ。利用されている側のはずなのに、なんかたまに逆転して見えるよね。そりゃメディスンも大変だわ」


「たとえ今いる場所が底辺でも賢く乗り切る――ってのがオレの人生哲学だ。そんなことよりも次の仕事はなんなんだ?」


訊ねられたリーディンは、そこからたい焼きの移動販売車を発進させた。


彼女は暗部組織ビザールに入ってから、上司であるメディスンに言われ、自動車免許やらたくさん資格を取らされていた。


それらは別に暗部組織のメンバーとして必須ひっすではなかったが、その取得した免許のおかげで車の運転ができている。


「とりあえずそこにあるデバイスを見て。画像があったほうが説明しやすから」


リーディンにそう言われたジャガーは、後部座席にあったタブレット型端末を手に取って起動させた。


すると、まず監視カメラの映像が流れ始める。


それは機械の腕をした白銀髪の女が、裸で路地裏にいるものだった。


「なんだよこれ? 新手のエロ動画か? 路地裏に裸の女って……なかなかマニアックな趣味だな」


「エロ動画でなんでワタシら暗部が動くんだよ。それよりも気が付いたことあるだろ」


「うん? この女……結構美人だな」


「そこかい! たしかにキレイな人っぽいけど、そこよりまず先に見るべきとこがあんでしょうがッ!」


リーディンは怒鳴りながら、ジャガーにその女の腕を見るように言った。


白い鎧甲冑のようなその機械の腕は、バイオニクス共和国で生産されている義手に比べると、随分と無骨なデザインをしていた。


そう、この機械の腕は――。


ストリング帝国が造り出したマシ―ナリーウイルに寄生された者の腕だった。


マシーナリーウイルスとは――。


かつてストリング帝国の科学者たちが開発した、人体を侵食する細菌。


このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主しゅくしゅの身体を機械化する。


機械化した者は、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、帝国の完全なる機械人形へと変わってしまう。


だが、機械化しても自我を失わない者が現れた。


それが世界を暴走したコンピューターから守り、生き残ったヴィンテージと呼ばれる三人。


アン·テネシーグレッチ、ローズ·テネシーグレッチ、ノピア·ラッシクである。


だが、その能力は差があり。


テネシーグレッチ姉妹とは違い、ノピアは適合者の力の一つ機械化した身体の箇所から電撃などを飛ばすことができない。


それは、彼がアンのデータを基にマシ―ナリーウイルスを強制的に体内に適合させているためだと言われてる。


「こいつは驚いたなぁ……。まさかヴィンテージとあいつ以外に適合者がいたのかよ……」


「あんたがそう言うってことは、この女は適合者で間違いないんだね」


ジャガーはストリング帝国のスパイとしてバイオニクス共和国に潜入していた。


だが、どうやらメディスンはそのことを知っているようで彼をスカウトし、逆に帝国の事情をこちらに教えるように契約をしているようだ。


本国で生まれたウイルスを宿す者――つまり適合者の機械化したものなら、ジャガーは一目見るだけで判断できる。


「ったく、ロウル·リンギングが共和国に来て、続いて謎の適合者かよ……。なんでおかしいことってのはこうも重なるのかねぇ」


ジャガーがうんざりした顔をしてデバイスを見ていると、そこからさらに衝撃を受けることになる。

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