#289

ジャガーはデバイスを見ていると、白銀髪の女は裸足のまま地面をトンッと踏みつけた。


すると彼女の左右にあった建物の壁が、地面から出た土の塊によってつらぬかれる。


「こいつはッ!?」


「問題のとこみたいね。ワタシはメディスンと一緒にそれを見たんだけど。今のアンタとまったく同じ反応していたよ」


リーディンが声を出して驚くジャガーに声をかけると、彼は「だろうな」と返事をした。


ジャガーとメディスンが何故ここまで驚いたのか。


リーディンはメディスンから話を聞くまではわからなかった。


二人がつい声をあげてしまうほど驚い理由は、その白銀髪の女の使った力が、ヴィンテージであるクロム·グラッドストーンと同じく大地を操るものだったからだ。


クロム·グラッドストーンは、画面の女と同じ白銀髪を持つ少年で、アン·テネシーグレッチらと共に暴走したコンピューターと戦った人物である。


彼の身体はコンピューターよって奪われ、世界中をその圧倒的な能力で恐怖に陥れたため、現在でもクロムの姿は多くの者の記憶に残っていた。


「なんだっけ? 合成種キメラっていうんでしょ?」


「ああ、お前も知っているだろ。オレらが子供ガキの頃に世界中をうろついていた化け物だよ」


「でもワタシの知ってる化け物とその女は全然違うよ。だって 合成種キメラってさ。ただ人を食い殺すだけの化け物だったじゃん」


ジャガーとリーディンが話している合成種キメラとは――。


かつて、暴世界を滅亡させようとしたコンピューターが生み出した人型の怪物だ。


ジャガー当時からストリング帝国の少年兵だったため、この白銀髪の女がそれら怪物とは違うことを知っている。


メディスンもそうだ。


彼は当時からバイオナンバーの兵士として、帝国や合成種キメラと戦っていた。


「こいつは特別なんだよ。外見は人間と変わらないし、他の化け物と違って自分の意思や知性がある」


それからジャガーは、リーディンが知っている合成種キメラとこの白銀髪の女の違いついて話を始めた。


彼が言うに、特別な合成種キメラにはそれぞれ異能力があり、それさえ抜けば基本的に人間と変わらないんだそうだ。


さらにヴィンテージである人間の多くが、この自我を持つ特別な合成種キメラだと言葉を続けた。


「マナ·ダルオレンジとラスグリーン·ダルオレンジの兄妹きょうだい。それからバイオナンバーの兵士シックス。ストリング帝国の女将軍キャス·デューバーグ。そして、この白銀髪女と関係がありそうなクロム·グラッドスト―ン……。今挙げたヴィンテージはみんな合成種キメラだ」


「ちょっと待ってよ!? 世界を救った人間の半分が化け物だったっていうのッ!?」


「おいおい、しっかり前を見て運転してくれ、危ねぇだろ」


事実を知ったリーディンは、思わず後部座席にいるジャガーのほうを振り向くと、彼に注意された。


慌ててハンドルを握り直す彼女だったが、まだ動揺はしているようだ。


「たしかに化け物には違いないが……。五人とも素晴らしい人たちだったよ……」


後部座席を映すバックミラーに目をやり、珍しく感傷的になっているジャガーを見たリーディン。


彼女はそんなジャガーを見ていると、今組織で問題になっている白銀髪の女が、自分たちの敵ではないのではないかと思った。

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