#287

廃墟都市が目に入る。


それから工場と巨大な団地が砂に飲まれている姿が目に焼き付く。


崩れたビル群のコンクリートや、むき出しの鉄骨。


あとわずかだが、生き続ける植物と流れ続ける水が、ここが死の星ではないことを知らせてくれる。


その廃墟には、現在と過去が共存しているようにブレイクには感じられた。


自分の見覚えがある建造物に挟まれながら歩いていると、突然の閃光と轟音。


辺りが地獄絵図と化し、レーザーが撒き散らされる。


そして、次々と二足歩行の物体が現れた。


それらはすべて機械だった。


出来損ないのブリキ人形のような機械が次々に襲ってくる。


圧倒的な数を前に、ブレイクは殺されると思った瞬間――突然映像が切り替わった。


そこでは、目の前に豊かな毛におおわれた一匹の仔羊が二本の足で立っていた。


その仔羊は、ブレイクの体を抱くと赤子をあやすように鳴いている。


ブレイクが辺りを見渡すと、そこには“クロムとロミーの結晶”と書かれたモニターが見える。


(クロムってのは、第六族元素だいろくぞくげんそのことか? いや、ロミーっての人間の愛称だろう。ということはクロムってのは……)


ブレイクが考えていると目の前の光景がぼやけていく。


仔羊の優しい鳴き声だけが聞こえる。


(こいつは一体……?)


そして、ブレイクの意識が元の現実へと戻された。


目の前には、白銀髪の女ミウム·グラッドストーンが両腕を組んで立っている。


汗まみれのブレイクは、彼女が自分に何を見せたのかを訊ねた。


「今お前が見たのは千年後の世界だ」


そう愛想なく言ったミウムは言葉を続ける。


自分は今から千年後の未来からやって来た。


彼女の生まれた時代では、生物はすべて絶滅して機械が支配していた。


戦いの果てにミウムは、世界を支配する機械をすべて破壊することに成功。


だが決戦後、すでに生物が絶滅しているこの世界を変えるには過去に戻るしかないと、彼女はルーツーと共に時間跳躍タイムリープすること決意し、すべてが変わるこの時代へとやって来たのだと言う。


《バイオニクス共和国が七年前に新しい西暦――生物世紀を作ってから千年後だから、今が生物世紀零七年なら俺たちがいたのは生物世紀千七年ってことになるな》


ルーツーがより説明をわかりやすくするためか、西暦の話を付け加えた。


ブレイクは顔をしかめる。


「そんなウソみてぇな話……信用できると思うのか?」


P-LINKピーリンクで嘘はつけない。それはお前自身が理解しているはずだ」


ミウムに対して、ブレイクは何も言い返せなかった。


それは、彼が以前にもPersonal link(パーソナルリンク)通称P-LINKを体験したことがあったからだ。


マシ―ナリーウイルスの適合者の少年ミックスの過去を――。


そして、望まずに自分の過去をミックスに見せたことがあったブレイクには、ミウムの言うことは信憑性しんぴょうせいがあったのだ。


戸惑うブレイクにミウム言う。


「わかったら手を貸してほしい。ルーツーにこの時代のデータを調べてもらったところ、すぐに会えてしかも信用してもらえそうなのがお前だけなんだ」


とても信じられる話ではない。


未来からタイムリープしてきたなど映画や小説の話だ。


だが、ブレイクにはわかる。


この白銀髪の無愛想女が真実しか語っていないことが伝わる。


それが、先ほど説明を受けたばかりのP-LINKによるものだということが身体を通し、頭と心で理解できていた。


伸縮式の剣のスイッチを押し、刃を収めたブレイクはミウムに再び訊ねる。


「それで、お前が過去を変えるためにすることってのはなんなんだ?」


ミウムは組んでいた両腕を解くと答える。


「それはこの国――バイオニクス共和国を潰すことだ」

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