#260
――ライティングが兵を連れてスピリッツの部屋に辿り着いたときは、すでに侵入者の姿はなく。
ただ一人、スピリッツが倒れていた。
両腕を折られ、さらに脳へのダメージが心配されるスピリッツは、そのまま城塞内にある集中治療室に運ばれる。
治療をした医者の話では、命に別状はないが絶対安静にする必要があるそうだ。
そしてその後、ライティングの元へある映像が送られてくる。
《え~と、これで映っているのかな? もう~こういうのも自分でやらなきゃいけないのが自営業のツライとこだよね~。さて、ストリング帝国の皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。総指揮官がやられちゃってご機嫌が良いはずないんだけど、まあそれは置いといて~、私はブライダル。これでも少しは名の知れた傭兵なんだけど、ま、知らないよね~。でさ、もう知っていると思うけど、スピリッツのおじさんにはしばらくリタイヤしてもらったよ~。本当にゴメンね。でもこっちもご飯食べていかなきゃいけなんでね。事情があるわけよ。そういえばご飯といえばさ、帝国の皆さんってタコスは好き?》
その映像には、プライダルと名乗る頭のてっぺんから伸ばしたポニーテールと、童顔で小柄なトランジスタグラマーな体型をした少女が、まるでインターネットへ動画でも配信しているかのような感じで映っていた。
ライティングは、その送られてきた映像をジャズとミックス、ニコと共に見たが、数時間に渡るブライダルの独り雑談が収められており、すべてを確認するのには相当な労力が必要だった。
《帝国っていえばやっぱアン·テネシーグレッチだよね~。世界を救った前作の主人公ッ! あれ? でもあの人はもう帝国やめて共和国側だったんだっけ? いや違うなぁ、両方の国に嫌気がさしたんだった。つーか、帝国ってなんで共和国に戦争で負けちゃったんだろ? ヴィンテージが二人もいんだよッ!? あのローズ·テネシーグレッチとノピア·ラシックがいてなんで負けるかな~。ブライダル的には帝国に勝ってほしかったな~。なんでかって? そりゃ私はアン·テネシーグレッチのファンだからさ。カッコいいよね機械の腕から電撃放って、輝く光の剣ピックアップブレードを振り回してさぁ。フィギュアとかほしかったな~。あれ? いやいやゴメンゴメン。アン·テネシーグレッチはもう帝国にいなかったって言ったばっかだったよね。私ってばおっちょこちょいなんだから~》
「……この女、本当に傭兵なの? 自己主張が強すぎる……」
「たしかに、承認欲求の
ジャズがうんざりした顔でそういうと、ミックスも同じ顔をして同意した。
ニコのほうはすでに見飽きたのか、映像を見ずに眠ってしまっている。
《おっともうこんな時間じゃないか!? ちょっと長くなり過ぎたね。じゃあ、ようやく本題に入るよ~》
ジャズとミックスは今までの話はなんだったのだと、顔をげっそりとさせながら思ったが、すで文句を言う気力も失っていた。
だが、眠るニコを膝の上に置いているライティングだけは、映像から目を離さずに見続けている。
《スピリッツのおじさんの次はジャズって女の人だから、近いうちにまたお邪魔させてもらうよ~。それじゃまたね~》
そこで映像はプツンと切れた。
ジャズは次に自分が狙われると知ったが、もはや反応することもできず、ただブライダルの話をもう聞かなくていいことに
「なんか話が長すぎて疲れちゃったけど、ジャズのことは俺が守るから安心してね」
ミックスがそういうと、ジャズはハッと我に返り、顔を真っ赤にしてその場から去って行ってしまった。
去り際にトイレといっていて、ミックスはずっと我慢してたんだろうなと、彼女の背中を見送る。
それからミックスは、ずいぶんと深刻そうな顔をしているライティングに気が付き、声をかけた。
「スピリッツさんのことは残念だったけど、命に別状はないみたいだし……。大丈夫だよ! ブライダルって子は俺が追い払うから!」
「ああ、頼りにしているよミックス」
いつもの笑顔をで返事をしたライティングだったが、その声は少しだけ震えていた。
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