#261

ブライダルの独り雑談――もといジャズへの暗殺予告のメッセージムービーを見たミックスは、今夜は彼女を警護すると言って同じ部屋にいることにした。


一人張り切る彼を見たジャズは、部屋を出ていくように言う。


「あたしがあんなお喋り女にられるわけないでしょ!? いいから自分の部屋に帰りなさい!」


「でも、やっぱ心配だし。いくらジャズが強くたってここの厳重なセキュリティを抜けて中に入って来ちゃうような子だよ。あのブライダルって子が諦めるまでは一緒にいたほうがいいって」


ミックスがそういうと先ほどまで眠っていたニコもコクコクとうなづいている。


そこは否定できないとジャズも思っていた。


老人といってもいい年齢のスピリッツだが、彼の実力は訓練でも実戦でも何度も見ている。


それは侵入してからわずかの時間であそこまで追い込んだのだ。


命を奪わなかったのも、おそらく依頼人から殺さないように言われていたのだろう。


それに、あの自己主張の強い傭兵は、親しい友人の家にでも遊びに行く感覚でこの城塞に入り込める。


つまりブライダルは、二十四時間一日中いつでもジャズを殺せるということだ。


「今だってこの城塞のどこかで俺たちのことを見てるかもしれない。でも、二人いればお互いに休みながら警戒できるでしょ?」


ミックスの案は交代で睡眠を取り、ブライダルが現れたら起きているほうが知らせるというものだった。


たしかに理にかなった提案なのだが、ジャズは彼に見られたくないものがあるようだ。


「ジャズはなにが不満なんだよ?」


「だって……あたしがもし寝ているときとか……その……」


「ああイビキのことか。そんなの今さら気にすることないじゃん。ジャズの寝相ねぞうが酷いのだって知ってるよ」


「な、なんであんたがそれ知ってるんだよ……」


「何度もうちに泊まってるだろ? あれだけうるさいイビキを聞けばそりゃ見ちゃうよ」


ミックスがそういった瞬間――。


彼の額にジャズの頭突きが突き刺さった。


「ギャァァァッ!!」


「人のプライベートな部分をのぞくなんて最低ッ!」


ジャズは、痛みで床に転がるミックスを見下ろして軽蔑けいべつの言葉を吐きかける。


そんな二人を見たニコは、あきれながら大きくため息を吐いた。


電気羊は、暴力を振るうジャズもジャズだが、ミックスのほうももう少し考えて喋れと思う。


「でもまあ、そこまで言うならあんたの案に乗ってやろうじゃないの」


「そ、そう? それならよかった」


ミックスが痛みから立ち上がると、外から城門が開く音が聞こえてきた。


こんな時間になんだと、二人は窓の外を見る。


「あれはプレイテックッ!? しかもあんな大人数を連れて一体どこへ行く気なのッ!?」


プレイテックとは、ストリング帝国の戦闘車両である。


その昔に南アフリカのパラマウントグループが作ったといわれる車――マローダーを思わせる外観をしており、ボディの色はサンドイエローとブッシュグリーンの二つカラー(砂漠地域なら前者、森林地域なら後者を使う)。


全長六.四メートル 高さ二.七メートル 総重量十トン。


乗員は二人だが、八人まで同乗可能なので、最大で十人まで乗れる。


車両重量約一万一千から一万三千、ホイルスペース約三.五メートル 最大積載量重量五千キログラム。


エンジンには六気筒ターボディ―ゼルを搭載とうさいしていて、最高速度は百キロメートル毎時。


防弾性能、対地雷防御性能にもすぐれ、ホイールは十四キログラムのTNT火薬の爆発にも耐え、厚さ九メートルにも及ぶ窓ガラスは、RPG-7(ロケット推進擲弾すいしんてきだん)の攻撃も防ぐことができるため、特殊能力者でも簡単には破壊できない。


武器はインストガンの大型タイプを車両の上部に付けていて、全方位へ電磁波を撃つことができる仕組みになっている。


まだ先代レコーディー·ストリング皇帝が存命のときにある探索してた部隊が、偶然この戦闘車両を発見し、構造を調べ、それから改良を加えて量産した。


軍の遠征時には欠かせない戦闘車両である。


そのプレイテック数台が、城塞内にいるほとんどの兵を引き連れて城門を出て行った。


「まさかライティング……ッ!?」


「ちょっとジャズ!? どこへ行くんだよッ!?」


ジャズは部屋を飛び出すと、駆け出しながら湧き出る嫌な予感が止まらなかった。

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