#253

それからも永遠なる破滅エターナル ルーインの脱走者たちは食事を続け、さらに城塞にいたすべてのストリング帝国の兵たちも集まり、まるでうたげのような光景が広がっていた。


夕焼けがそんな敵と味方同士だった全員を照らし、この砂漠さばくを美しい絵画かいがのように仕立てている。


その中に、スピリッツとライティングもいた。


だが、帝国のあかしである深い青色の軍服を脱ぎ、エプロン姿の彼らを見ても誰も気づきはしない。


「いやー実にうまい。こんな食べ物がこの世にあったのか」


スピリッツは白髪頭をきながら、この一万の脱走軍を止めた鍋料理――カレースープに舌鼓したつづみを打っていた。


ライティングもそのとなりで、彼と同じように舌を鳴らしている。


四肢のない彼は、手の先がない金属部を車椅子の肘掛けに差し込むことで、椅子から現れるメカニカルな触手を使って食事をしていた。


二人はカレースープを飲みながら、冷めないように鍋を火にかけるミックスとニコの姿を見ていた。


そんな彼ら傍には、ジャズが何故だか不機嫌そうな顔をして手伝っている。


「そろそろいいのではないかな。ライティング殿どの


「はい。全員に料理が手渡されたことですし、さらに食べながらほうが話というのは聞いてもらいやすいですしね」


ライティングはスピリッツにそう返事をすると、メカニカルな触手が動き出した。


彼はまずボウルに入ったカレースープを飲み干し、口元をナプキンで拭くと、車椅子からマイクを出す。


どうやらライティングが乗る車椅子には、PA機器までそなわっているようだ。


それから車椅子から新たに生やしたメカニカルな触手四本出し、この場にいるすべての者が見える位置まで高く立ち上がる。


「食事をしながらいいから話を聞いてほしい。ボクはライティング。かつては君たちと同じ、永遠なる破滅エターナル ルーインにいた人間です」


そして、ライティングは口を開いた。


すると、食事に夢中になっていた脱走者たちが彼のことを見上げ出す。


車椅子に乗ったライティングの姿を見て、彼らは口々に言葉を発していた。


あれはライティングだ。


間違いない。


ルドベキアホールでは、彼のおかげで逃げることができた。


――と、多くの脱走者たちがライティングのことを知っていた。


それもそのはずだ。


ライティングは彼らと同じく元永遠なる破滅エターナル ルーインのメンバーである。


しかも、以前に雪と氷に覆われた地域――ルドベキアホールでの戦闘で、自身の四肢を切断することで神経を繋げたドローンの性能を発揮し、仲間を逃がすために戦ったことがある。


いうならば英雄のような存在。


直接ライティングのことを知らなくても、永遠なる破滅エターナル ルーインにいた者ならば誰も聞いたことある名だった。


「やっとスピー大尉がライティングをここへやったことが報われるな」


「うんジャズ? なにか言った?」


「なんでもない。いいから静かにして」


ジャズのぼやきに首を傾げるミックス。


二人の近くにいたニコも同じよう首を傾げていると、ライティングはいつも以上におだやかな声で話を始めるのだった。

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