#252

「あのバカッ!? 戦闘中に誰が食事を取ろうなんて考えるんだよ!」


ジャズが一人声を張り上げていると、この大混戦の中で城門が開いていく。


彼女はまさかと慌てて身を乗り出すと、開いた城門からは大きな鍋の乗った荷台が見えた。


「みんなお腹が減っているって聞いてるよ! さあ一緒に食べようッ!」


これでもかというほどの大声で叫ぶミックスが、たった一人で敵の中へと歩いていく。


これは不味いと思ったジャズは側防塔から急いで駆け下り、ミックスがいる城門まで向かう。


(敵の中に一人で行くなんて死にたいのあいつはッ! 大体なんでスピリッツ少佐もライティングもあいつを止めないんだよッ!?)


彼女が城塞の内側から門の前に行くと、そこにはエプロン姿のスピリッツとライティングが、料理作りに参加していたの帝国兵たちと共にいた。


その姿は、全員先ほどまでキッチンにいましたといった様子だ。


「スピリッツ少佐ッ! これはどういうことですかッ!? あいつ一人で行かせるなんて殺されちゃいますよ!」


ジャズはそんなエプロン姿の老兵に怒鳴り散らす。


立場的にはジャズは中尉で、スピリッツは少佐だ。


普段の彼女なら絶対に上官へこんな口の利き方はしないだろう。


そんないつもと違うジャズを見たスピリッツや帝国兵たちは、呆然ぼうぜんとしてしまっていた。


そんな中でライティングだけが、一人クスクスと笑っている。


誰一人動こうとしないので、ジャズはもういいとばかりに城門の外へと出ていく。


(あのバカはそれなりに強いから殺されてはいないだろうけど……。あぁッもうッ! なんでもあたしがあいつの心配をしなきゃなんないんだよッ!!)


そして、彼女が外へと飛び出すと――。


「おッジャズも来たね。ちょっと待ってて。先にこの人たちに食べてもらいたいんだ」


ミックスが、ニコと共に脱走者たちへ鍋に入ったカレースープを配っていた。


その光景を見たジャズは、持っていた銃剣タイプのインストガンを地面に落とし、立ち尽くしてしまっていた。


「どうなってんのよ……。まさか食べ物ぐらいであの凄まじい進撃が止まったの……?」


そんな馬鹿なとでも言いたそうな表情で、ただ楽しそうにカレースープを渡しているミックスとニコを眺めている。


スパイシーな香りが辺りに充満し、脱走者たちはミックスの指示に従って整列し、順番にカレースープを受け取っていた。


そして受け取った者は、涙を流すほど喜んで食している。


「まだまだ城塞の中にいっぱいあるからね! 遠慮せずみんな、ジャンジャン食べてッ!」


すでに五百、いや千人以上はいるだろうか。


そこからさらに人が増えている。


とてもじゃないが今ある量では足りないとジャズが思っていると、そこからエプロン姿の帝国兵たちが数台の荷台を引いて現れた。


どうやらミックスが言った通りまだまだカレースープはありそうだ。


「ま、まさか一万の脱走軍が……本当に鍋料理で止まっちゃったわけ……?」


ジャズは口では疑問を口しつつも、ミックスの作戦に何らかの効果があるとは信じていた。


だがしかし、ここまでの結果が得られるとは思ってもみなかったのだった。

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