#243

廊下に出たジャズはニコを抱いたまま早足で歩いていく。


ミックスは誰に会わせるつもりだろうと、黙って後をついていった。


彼は少し後悔していた。


それは、せっかく数週間ぶりに会えたというのに、こんな再会を望んでいなかったからだ。


二人が言い合いをするのはいつものことなのだが。


いつも言い負かされてたというのに、まさかジャズのほうが黙ってしまったことも、ミックスが止めておけばよかった思う一因だった。


(だけど……軍隊を指揮して戦うなんて……まるで戦争じゃないか……)


ミックスはジャズに戦ってほしくなかった。


彼女が傷つくことも誰かを傷つけるのも嫌だったのだ。


だが、ジャズが元々ストリング帝国の軍人だということは知っている。


それに、彼女が好んで戦いを仕掛けるような人間じゃないことも知っている(ミックスにはわめいてすぐ頭突きを喰らわせるが)。


ジャズが戦う理由はいつも誰かを守るための戦いだ。


しかし、それでもミックスは彼女が戦場に出ることが耐えられなかった。


「……今から会わせる人は、あんたが会ったことがある人の恋人だ」


感情を殺した声を聞き、ジャズの背中を見たミックス。


彼女の言葉に関心がなかったわけではなかったが、その後ろ姿――改めて青色の軍服を着たジャズを見て、まるで自分の知らない人間のようだと寂しさを覚えていた。


「ちゃんと聞いてるの?」


「ああ……聞いてるよ。俺が会ったことがあるって……ストリング帝国と関係がある人だよね?」


ミックスはまずジャズの双子の弟で同級生でもある、ジャガー·スクワイアのことが浮かんだが、そういえば彼が恋人をほしがっていたことを思い出して口には出さなかった。


さらにジャガーからは、彼がバイオニクス共和国でスパイ活動をしてことを、姉であるジャズには黙っているように言われていたからだった。


となると、残る帝国出身で会ったことある人物は――。


ジャズの叔父であるブロード·フェンダーと、彼女の友人ヘルキャット·シェクター、アリア·ブリッツの二人だ。


まさか今日出会ったばかりのパシフィカ·マハヤやスピリッツ·スタインバーグのことではないだろう。


そう考えると、先に出てきた三人になるのだが――。


「ちなみにブロード叔父さんや、ヘルキャットとアリアではないぞ」


「うッ!? そ、そうなの?」


まるでジャズに心を読まれたかようにくぎを刺されたミックスは、ならば他に誰がいるのだと訊ねた。


訊かれたジャズは足を止めて振り返ると、ミックスの顔を見つめた。


「サービスのときのことは覚えている?」


「そりゃ忘れないでしょ。サービスのこともあのトランプののことも」


「これから会うのは、そのあんたがトランプの娘っていっているリーディンの恋人よ」


「リーディンの恋人? なんでそんな人がストリング帝国の軍隊にいるんだよ?」


「かなり長くなるから後でちゃんと話してあげる。今はそのことだけ覚えておいて」


そういったジャズは、足を止めた場所から数歩進んだところにある扉の前へと向かった。

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