#242

目をこすりながら机から立ち上がったジャズは、今度は両目を開いて訊ねた。


事前にミックスたちが来ることは聞いていたのか、そこまでは動揺していない様子だ。


「なんかパシフィカって子に、ここまで連れて来られたんだよ」


「パシフィカ·マハヤ軍曹か。ノピア将軍の言っていたことは冗談じゃなかったんだな……」


「冗談って……っていうか、ジャズがここで指揮をっているって聞いたけど本当なのッ!?」


反対にミックスのほうは声を張り上げて驚いている。


彼は、出会ったときからジャズがストリング帝国の軍人だとは聞いていたが、まさかこんな大きな城塞で指揮をまかされるような立場の人間だとは思わなかったのだ。


そんなミックスに落ち着くように鳴きかけるニコ。


まあまあ、ジャズにもいろいろあるんだよとでも言いたそうな態度だ。


ジャズはそんなミックスたちを見ると、疲れていた顔をキリッと引き締めて答える。


「あたしは中尉になったばかりで、これは異例の大抜擢なんだよ。それに、最高指揮官はスピリッツ·スタインバーグ少佐。あたしはあくまで援軍なの」


「だからってテロ組織から逃げてきた人たちと戦争なんてダメだよ!」


「戦争じゃない。鎮圧ちんあつだ! それに襲ってきているのは向こうなんだぞ!? 戦わなければこっちがやられる!」


「そこは話し合いでなんとかできないのッ!? パシフィカから聞いたけど、その人たちだって生きるためにしょうがなくって感じみたいだし。なによりもジャズがその戦いでケガしたら嫌だよ!」


「あ、あんたという奴は……。ど、どうしてそういうことを言うんだ……ッ!?」


ミックスのあまり勢いに、身を震わせて言葉に詰まってしまうジャズ。


彼女には彼がこう言うことはわかっていた。


だから、上司であるノピア·ラッシクが援軍にミックスを送るといったときに、冗談でも止めてほしいと言い返したのだ。


そんな頭を抱えてしまったジャズを見たニコは、めずらしくミックスが彼女を攻めていると思って面白がっている。


それは、このように言い合いを始めるのはいつものことなのだが。


こうやってミックスがジャズを黙らせることはほとんどないからだった。


「もういい……あんたとこんな話していても賊軍は襲ってくるんだ」


「ちょっと待ってよジャズ! まだ話は終わってないよ!?」


「いいからあんたも来い。ここの現状を詳しく教えてやる」


ジャズはあきれた様子でニコを抱くと、部屋を出ていく。


ミックスはそんな彼女の後をついていき、廊下ろうかへと出る。


「現状ならパシフィカから聞いてるって」


「いいから来い。とりあえずあんたのことを紹介しておかなければいけない人たちがいるんだよ」

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