#241

ジャズがいると言われたところは、尉官いかんである者が待機する部屋にしてはずいぶんと見すぼらしい感じの扉だったが。


敵の侵入を防ぐための城塞に、豪華な宿泊施設のようなものを期待してもしょうがないだろう。


「この部屋にジャズがいるんだぁ……」


ミックスは無意識につぶやいていた。


それはニコも同じで、その見すぼらしい扉を見ながら彼の横でメェーと鳴いている。


二人が出会ったのはミックスが戦災孤児の学校へと入学してからすぐだった。


電気仕掛けの仔羊ニコは、そのときに彼がジャズへプレゼントした。


それからニコは彼女の寮で一緒に暮らすようになり、なんだかんだいってミックスとジャズは毎日のように会っている。


こないだの歯車の街ホイールウェイへの修学旅行も二泊三日くらいで、二人が会わなかった日の最長期間。


ジャズがストリング帝国に里帰りしてから、早くも一ヶ月近く経っていたことを思い出したミックスは、扉を見て彼女のことを考えるとしみじみしてしまっていた。


それはニコも同じようだ。


先ほどからずっと扉を見つめてほうけている。


そんなミックスたちに気が付いたスピリッツがコホンと咳払いをした。


ハッと我に返った彼らを見たスピリッツは意地悪く笑うと、その場を去っていった。


「ちょっとスピリッツさん!? どこへ行くんですか!?」


わしはいないほうがいいだろう。それじゃまた後で会おう、ミックスとニコよ」


ミックスが彼の背中に声をかけると、そのままからかうような言い方で返事をし、歩いていってしまった。


残されたミックスたちがキョトンとしていると、部屋の中からバタンッと大きな音が鳴った。


ミックスとニコは大慌てでノックもせずに中へと飛びんだ。


「ジャズッ! 大丈夫ッ!?」


そこでミックスたちが見たのは、机の上に突っ伏して寝ているジャズの姿だった。


そして、机の下に転がっている電子機器。


どうやら先ほどの音は机に置いてあった電子機器が落ちたときに鳴ったものだったようだ。


「なんだよ、全く……。寝るならベットに行けばいいのに……」


ミックスはそう呟くとジャズの顔をのぞき込んだ。


共和国にいたときよりも顔色が悪く、なんだかげっそりしている。


会っていない間の数週間でここまでやつれるものなかと、ミックスは彼女の変化に驚いていた。


(こんな疲れた顔して……ちゃんとご飯食べてるのかな……)


心配そうにしてジャズを見つめるミックスの傍で、ニコも彼女のことを眺めながら悲しそうに鳴いていた。


「うぅ……。あれ? なんであんたたちがここにいるのよ……? っていうか、これは夢?」


「そんなことよりも、こんなところで寝たら風邪かぜひくよ」


ミックスは、まだ寝ぼけていそうなジャズに向かって、満面の笑みでそう言うのだった。

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