#239

ミックスたちを乗せたトレモロ·ビグスビーが城塞の一角にある広場へと着陸する。


そこには整列した軍人たちが立っていた。


全員ストリング帝国のあかしである深く青い軍服を着ている。


その中心には、白髪交じりの頭をした男が立っていた。


「全員、パシフィカ·マハヤ軍曹に敬礼けいれい


その人物の名はスピリッツ·スタインバーグ少佐。


まるでわらのように細い身体をしているが、数々の激戦を潜り抜け、一兵卒からのし上がった人物。


一兵卒だった自分を佐官まで出世させてくれたローズに深い忠誠をちかっている。


先代レコーディー·ストリング皇帝を知る、現在では数少ない老兵。


「わざわざありがとうございます。スピリッツ·スタインバーグ少佐」


背筋を伸ばし、敬礼し返すパシフィカ。


先ほどまでプンスカ怒ってミックスにみついて人物とは思えない態度だ。


彼女に続いてミックスとニコも航空機から降り、戸惑とまどいながらもストリング兵に頭を下げる。


「では、次の任務があるので、わたしくはこれにて失礼させてもらいます」


「えぇッ!? パシフィカ帰っちゃうの!?」


「わたくしの任務はあなたをこの場所に送りとどけることです。それを終えた今、次の仕事がありますので」


「そっか、せっかく仲良くなったのに……」


残念そうに言うミックスの隣で、ニコも寂しそうに鳴いた。


悲しそうに顔をしている二人を見たパシフィカは、ムムムと表情を歪めると彼らからプイっと目をらす。


「そんなこと言われても仕事なんですからしょうがないでしょう」


「まあ、忙しい過ぎて体を壊さないようにね」


「わざわざどうも。それでは失礼いたします」


そして、彼女は再びトレモロ·ビグスビーへと乗り込んで去って行った。


飛んでいく航空機を見送っていると、ミックスとニコに先ほどの老兵が声をかけてくる。


「君が適合者の少年かね?」


先ほどの敬礼のときとは違い、親しみやすい笑みを浮かべている。


ミックスはスピリッツを見て思う。


ジャズやヘルキャット、アリアは別として――。


軍人というとまずイメージするのは、ジャズの叔父であるブロード·フェンダー大佐が出てくるのだが。


このスピリッツ·スタインバーグ少佐。


ブロードとは違い、その地位のわりにはずいぶんと偉ぶっていない態度である。


どちらかというと軍人というよりは、親戚のお爺さんのような感じだ。


年齢は五十九歳だとパシフィカからは聞いていた。


背筋がの帯びていて体型がスラっとしているせいか、歳のわりには若く見える。


わしはスピリッツ·スタインバーグ。この城塞で指揮官をやっている。よろしくな」


「はい、俺はミックスといいます。こっちは電気羊のニコ」


「電気仕掛けの仔羊か? まだそのタイプのロボがあったんだな。さて早速ジャズ中尉のところへと案内しよう」

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