#238

それからパシフィカの怒りが収まるまで噛みつかれたミックスは、その痛みに涙しながらもこれから行く場所のことや状況を訊ねた。


散々噛みついてスッキリしたのか、パシフィカはにこやかに答える。


これから行くところはストリング帝国の防衛ライン。


砂に埋もれた文化がそこら中で朽ち果てている死の砂漠地帯だ。


帝国はそこに城塞を築いており、許可もなく領土内に入って来る者を追い返しているそうだ。


「ちなみに、空から侵入しようとしたら、城壁に設置してある大型の電磁波砲台で撃ち落とします」


「インストガンには大砲タイプもあるのか。電磁波って、反応性が高い武器なんだなぁ」


「‟汎用性はんようせい”ですッ! 電磁波が応じたら武器の意味が変わっちゃうじゃないですかッ!」


ミックスのがくのなさ――というか、言い間違いに怒鳴るパシフィカ。


彼女は、無理して難しい言葉を使わなくてよいと言いながら話を戻す。


その帝国の城塞に、今まさに永遠なる破滅エターナル ルーインだった者たちが襲撃しゅうげきしてきている。


ジャズはその戦いに援軍として駆けつけ、現在はその場所を守護しゅごしているだろうとのことだ。


「ふーん。それで永遠なる破滅エターナル ルーインだった者たちってのは、どういうことなの?」


「彼らは脱走者です。おそらく永遠なる破滅エターナル ルーインから逃げ出して食うのに困り、ぞくの集団になるしかなかったというところでしょう」


「それはわかっただけどさ。なんでわざわざストリング帝国みたいな強い国をおそうの?」


「フムゥ~。それはわたくしにもわかりません。ただ、こないだ科学列車に乗ったフォクシーレディを襲撃したところをみるに……」


「ああ、あのときの人たちって永遠なる破滅エターナルルーインだったのか。赤毛の女の子がリーダーっぽかったけど、なんかあっという間にやられちゃったんだよね」


「あなたまさかッ!? フォクシーレディと会っているのですか!?」


「そりゃプラムラインにいたから会ってるけど……。なんかアイスクリーム買わされた記憶しかないなぁ」


パシフィカはミックスの話を聞いて思う。


たしか科学列車プラムラインの事件では、あの強盗カップルで有名なプロコラットとユダーティが何も奪わずに退散したとか。


もしやこの少年があの二人を止めたかのか?


(まさか、そんなバカなことがあるはずありません。プロコラットは奇跡人スーパーナチュラルの中でもハザードクラスに匹敵ひってきする実力の持ち主のはず。それをこの鈍くて頭の悪い少年が退しりぞかせたなどあるはずがない)


だが、プラムラインの列車強盗の後から――。


強盗カップルの二人は変わらずに金持ちから盗みを続けていたが、殺人はしなくなったようだ。


その理由、ある少年との出会いからだといううわさが立っている。


パシフィカは、もしかしたらこの鈍くさいミックスが、その少年なのではないかと思い始めていた。


そう考えれば、何故ノピア将軍がわざわざ自分の仕事を中断させてまで迎えに行かせたのかの理由がつく。


(ジャガー中尉がそのときのプラムラインに乗っていたと聞いていますが……。何か関係あるのかを今度たずねてみますかね。……いや、いっそのこと本人にいたほうが早いか……)


「うわぁッスゴいぞニコッ! 下は砂だらけだ!」


ミックスはニコをかついで、今乗っている航空機であるトレモロ·ビグスビーの窓から外を見ている。


きっと生まれて初めて砂漠さばくを見たのだろう。


まるで観光に来た子どものようにはしゃいでいる。


「いや、訊くまでもないですね。こんな子どもが……あり得ないです……」


「うん? 自分が子どもって自覚したの?」


「コラァァァッ!! 誰が子どもですかぁぁぁッ!!!」


「ま、待った待った! 自分で言ったんじゃないか!? ギャァァァッ!!」


そしてミックスは、パシフィカと出会ってから三回目の噛みつきを喰らうのであった。

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