#237

「えぇッ!? なんで俺がそんな作戦に参加しなくっちゃいけないんだよッ!」


大声をあげるミックスに続いてニコも鳴きわめく。


パシフィカはわずらわしそうな顔をすると、ドンっと彼らに詰め寄った。


「そんなのわたしくも知りませんよ! 文句があるなら到着したときにジャズ中尉にでも言ってくださいッ!」


「は、はい……」


そのときのパシフィカのあまりの迫力に、ミックスとニコは一気に大人しくなる。


「……って、待ってよ。ジャズ……? ジャズはストリング帝国にいるんじゃないの?」


「ジャズ中尉は、今対反乱作戦の援軍として防衛ラインで指揮を取っています」


「なんでだよ!? ジャズは里帰りしたんじゃ――ッ!?」


「だから何か言いたいことがあるなら中尉に直接いってくださいッ! そもそも何故わたしくがこんな仕事をしなければならないんですかッ!? ノピア将軍の命令じゃなければこんなくだらない任務を引き受けたりしませんよッ! こっちはあなたのせいで合成種キメラの資料もまとめなきゃいけないし、他にも消息不明のヴィンテージ捜しもあるし、ともかくやることが山積みなんですよッ!」


「は、はい……。なんか、ごめんなさい……」


訊ねても怒涛どとうの早口で返されてしまったミックスは、結局パシフィカにだまらされてしまった。


付け足すように、まるで愚痴のようにあなたせいと言われても――。


ミックスは、合成種キメラの資料やらヴィンテージ捜しは自分には関係ないと思っても言い返すことができない。


だがジャズのこともそうだが、彼が何よりも気にしているのは――。


「あのー、とても言いづらいんだけどさ……」


ミックスは今まで病院への入院や思いがけない欠席が続いていたせいで、すべての休日を担当教師であるアミノの補習を受けなければいけない状況だったので、そのことを小声でパシフィカへ伝えた。


いきなり国外に飛ばされたら学校へは行けなくなるし、そもそもこの着替えやらの荷物を見るにすぐに家へと帰してもらえそうにない。


それは当然進級もできなくなるということだ。


それを聞いた彼女は、そのことなら問題ないという。


「単位の問題ならちゃんと解決しています。あなたの担任であるアミノ先生には、ストリング帝国のボランティア活動ということで話が通ってますので」


「そ、そうなの……? それでよく通ったな……」


「それは当然です。なにせこのわたくし、パシフィカ·マハヤが直接交渉の場に立ったのですからね。階級が低いからってバカにしないでください」


「いや、君みたいな小さな子が軍曹ってかなりスゴいんじゃないの?」


「また……」


「えッ……?」


ワナワナと震えるパシフィカを見たミックスは、彼女の顔をのぞき込もうとする。


そんな彼の服の袖を引っ張ってニコは止めたが――。


「またわたくしのことを子どもあつかいしましたねッ!」


「ちょっちょっとッ!? 待って今のはそういう意味じゃッギャァァァッ!!」


また彼女の逆鱗げきりんに触れてしまったミックスは、先ほどと同じようにガブッと頭をみつかれてしまう。


トレモロ·ビグスビーの機内にいるパシフィカ以外の帝国兵たちは、そんな彼の悲鳴を聞いても微動びどうだにせず、ただ前だけを見て運転を続けていた。


ニコはパシフィカを子ども扱いしてはいけないことを完全にさとり、ともかく彼女がミックスの敵ではないことに安心する。


しかしこの適合者の少年は、ジャズのときもそうだったが、どうしてこうさっしが悪いのだろう。


彼女の嫌がることなど最初に噛みつかれたときにわかりそうなものなのだがと、大きくため息をついてあきれている。


「この短い間で二度も子ども扱いするなんて、ぜぇ~たいに許しませんッ!」


「だからゴメンってばッ! おいニコッ! 見てないで助けてよ! ギャァァァッ!」


さらに歯を食い込ませていくパシフィカと悲鳴をあげ続けるミックスを見たニコは、自分にできることは何もないと、ただ静観し続けるのだった。

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