#236

一機の航空機――オスプレイがバイオニクス共和国から飛んでいく。


ストリング帝国の科学力がほこる兵器の一つ――トレモロ·ビグスビー。


全長約十七メートル 全幅約二十五メートル 全高約七メートル。


本体下部についた大型タイプのインストガンで、全方位へ電磁波を撃つことができる仕組みになっている。


垂直離着陸型のそれは、ヘリコプターの垂直離着陸能力を持ちながら長距離飛行移動が可能であり、最大で約二十人は乗員可能。


帝国の遠征時に使われる航空機だ。


「はい、適合者の少年は現在運び中です。無事に到着したらまた連絡します~」


その甲高い声でミックスは目覚めた。


見慣れない機内を見回した彼は、まず目の前にいる深い青色の軍服を着た人物が目に入る。


「お目覚めですね。さて、まずは名乗りましょうか。わたしくはストリング帝国のノピア将軍の部下、パシフィカ、パシフィカ·マハヤ軍曹です」


パシフィカ·マハヤ――。


ストリング帝国軍の穏健派――ノピア·ラッシク派。


髪を左右にたばねて丸め、団子状に結っているお団子頭の少女だ。


年齢は十二歳らしいが、ミックスからはもっと幼く見えていた。


「君が……軍曹? ストリング帝国って、こんな子どもが下士官かしかんやっていて社会問題にならないのかな……?」


「誰が子どもですかッ!?」


「ギャァァァッ!!」


パシフィカはミックスの頭にかじりついた。


その小さな体で噛みつく様は、まるで食肉類イタチ科の小動物のようだ。


どうやら彼女は、自分が子どもあつかいされるのが何よりも嫌らしい。


ミックスは噛まれた頭をさすりながら思い出す。


《そうだな~手短といわれると……。うん、今からお前のとこに帝国から迎えが来るから、詳しいことは来た奴に聞いてくれ》


それは、ジャガーがエレクトロンフォンで彼に言ったことだった。


(ジャガーの話だと、この子がその帝国からの迎えだよね……)


詳しいことの内容とは一体何なのだろうと、彼が思っていると――。


「あぁぁぁッ!? ニコッ!?」


電気仕掛けの仔羊が犬猫用のケージに入れられていた。


ミックスは慌ててそのケージに駆け寄り、パシフィカに向かって声を張り上げた。


「ペットはおりに入れておくが普通でしょう」


「ニコはペットじゃない! いいから早く出してやってくれよッ!」


ミックスがケージの中で鳴いているニコを早く出すようにいうと、パシフィカはしょうがないなといった様子で鍵を開けた。


飛び出してきたニコをミックスがなぐめていると、パシフィカが彼の目の前にドサッと荷物を置いた。


どうやら睡眠ガスでミックスが眠っている間に、彼の着替えやらなんやらも持ってきたようだ。


「あの……パシフィカさん……。この状況を簡単にわかりやすく説明してくれると助かるんですが……」


「あなたには、これから元永遠なる破滅エターナル ルーイン軍の鎮圧ちんあつ――対反乱作戦に参加してもらいます」

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