#231

ウェディングとブロードの元へ、ヘルキャット、アリア、クリーンが並ぶ。


これで五対一。


一見優勢に見えるウェディングたちではあったが、それでもロウルは余裕の表情をくずさない。


「……スゲーなぁ。共和国も帝国も関係なく、ただ守りたいというだけで手を取り合ってんだからよ。あのミックスとかいう少年……大した人望だ」


その言葉と共に、ロウルは呼び寄せた処女ヴァージンまたがり、空へと飛び上がった。


真っ黒なバイクのような形状だった処女ヴァージンが、ロウルが乗ったことで月に照らされた騎士のように見える。


その輝く月を背にロウルは拳を構えた。


すると、処女ヴァージンも彼と呼応こおうするように禍々まがまがしいオーラまとっていく。


「これで最後だ。全力を持ってお前らを粉砕ふんさいする」


ウェディングたちの目には、ロウルと処女ヴァージンが一体化していくように映っていた。


その禍々しいオーラを感じ、クリーンの持つリトルたちも震えている。


「次に奴が攻撃を仕掛けてきたときが最後のチャンスだ」


ブロードが四人へ声をかけた。


あの攻撃をこらえ、全員で一斉に仕掛ける。


インストガンによる電磁波の集中砲火と、クリーンのベルサウンド流の技、さらにウェディングのダイヤの剣を同時に食らわせればいくら相手が呪いの儘リメイン カース合成種キメラ二重の怪物でも一溜ひとたまりもないはずだと。


「なら、あれを受け止めればいいんだね」


ウェディングが誰よりも先に前に出た。


自分には超復元グレート·リストレーション――。


実質的にどんな重傷を負おうが、どんなウイルスに感染しようがすべて正常な状態に治してしまう能力がある。


この場で自分ほど盾に向いている者は、他にいないだろうと言う。


だがブロードは――。


「それではダメだ。全員で同時に攻撃をしなければ意味がない」


「でも、あれを受けたら私以外みんな死んじゃいそうじゃないですか」


二人が言い合いをしていると、ヘルキャットが叫ぶ。


「二人共ッ! そんなこといっている間にもう来てるッ!」


禍々しいオーラを纏い、処女ヴァージンと一体化したロウルが五人を目掛けて向かって来ていた。


それはまるで重力に引かれて落ちてきた隕石いんせきのように、ウェディングたちをつぶそうとしている。


「あわわ! ど、どうしようッ!?」


「もうおじ様を止められないのなら、全力で受けるのみです」


取り乱すウェディングへクリーンがそういうと、全員覚悟を決める。


しかし、とてもじゃないが堪えることなどできなそうだった。


今のロウルは先ほど例えたように隕石だ。


潰されるどころか、ここら一帯を焼け野原にでもしそうな勢いだ。


「それでも……やるしかありませんよね」


「そうね……。もう戦場へ出てきちゃったんだから」


「死んで二階級特進だけはごめんだがな」


アリアにヘルキャットが同意し、ブロードが皮肉を口すると、全員が突っ込んでくるロウルのほうを向いた。


さすがにこのまま消し飛ばされると思ったが、そのときに突然五人の目の前に人影が現れる。


機械の身体を持った少年――ミックスだ。


患者衣かんじゃいのまま。


おそらく皆がまだ戦っていると思い、病院を抜け出してきたのだろう。


五人は驚愕したが、もはやロウルは目の前に迫っていた。


誰もが我先にと彼を守ろうと走った。


しかし、もう間に合わない。


「うおぉぉぉッ!! シャドウゥゥゥッ!!!」


ミックスがロウルに機械の手をかざして咆哮ほうこう


その叫びの後にミックスのてのひらからは、空間くうかんゆがめるような竜巻たつまきじょうのものが現れていた。


その竜巻に包まれたロウルは、まるでその場にしばり付けられたかのように急停止。


ロウルと処女ヴァージンの動きをうばわれた。


「くッ!? まさか自分から来たのかよッ!?」


「どうやら間に合ったみたいでよかった……。さあみんな、あとはお願いッ!」


ミックスの言葉を聞き、五人全員が動き出す。


ブロード、ヘルキャット、アリアはインストガンの出力を最大にして電磁波を発射。


そして、クリーンが宙に向かって十字を切るように振る。


「ベルサウンド流、モード小雪リトル スノー&小鉄リトル スティール。乱れ雪鉄風花てっぷうかッ!」


白と黒の斬撃がクロスして飛んでいく。


そして、両手に生やしたダイヤの剣を構えてウェディングが飛び込む。


「いっちゃえぇぇぇッ!!!」


五人の攻撃を同時に受けたロウルは、一体化した処女ヴァージンと共に吹き飛んでいった。


電磁波と光の十字架を胴体にきざみ付けながら、そのまま物凄く速度で見えなくなる。


遠くからは何回も破壊音が聞こえてきていた。


きっと吹き飛ばされたロウルが建物を突き抜けて壊していく音だろう。


かなりの距離を飛んで行っても聞こえ続け、やがて音が止むと、ブロード以外の全員がその場にグッタリと倒れ込んだ。

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